「パラレルワールド!?」54
「ところでレイシアさん。そろそろ何をしに来たのか教えて貰える? お見舞いだけじゃない様子だったけど」
「そうです、こんな事をしている場合じゃなかったんです!」
「こんな事って……」
我に返ったのか、ここに来た理由を思い出したらしい。勿論見舞いはする必要があったが、それも役目の一つ。そしてもう一つ、頼まれていた事があったのだ。
「学院長に呼ばれていたんです。なのでスバルを連れて行こうと」
「あぁ……手続きが終わったのか? 寝てたから半日余裕で潰せたんだな。ラッキーなのか、どうなのか微妙だな……」
まだまだ見たい場所はあったのだが、ああなってしまえばどうしようもない。それにここに居る間は見る事も出来るだろう。椅子から立ち上がって伸びをすると、背骨が小気味良く鳴る。そして乱れている服装を軽く整え息を肺に送り込む。やはり、どこにも異常は感じられない。少々空腹感があるような気がしたくらいである。
「よし……行くかね」
「はい!」
「それじゃあアンリ先生、ありがとうございました。お陰で動けるようになりましたよ」
「いえいえ。でも、あんまり無理はしちゃダメよ? 治療も結構大変なんだから」
「は、はぁ……気をつけますっ」
鼻の頭を突かれてしまい、どう対応すれば良いのか分からない昴。さすがに女性の扱いまでは把握していないようだ。いきなりされた行為に顔を赤くしながら首を傾げる。その様子を見ていたレイセス。少し強めに昴の腕を取り、引く。
「行きますよスバル」
「っと……では失礼します」
「はい、また来てね」
ここで昴は思い出す。一つ聞きそびれたな、と。
「あの耳……今度聞こう……」
昴の興味はずっとそこにあったようだ。アンリへの視線はほとんど耳へ送っていたが、気付かれなかったらしい。呟きながら二人は保健室――この部屋の名前も昴は知らない事に気が付いたが、後回しに――を後にした。
*****
日が暮れ、空に夕闇が見え始めた頃、昴とレイセスの二人は朝に来た学院長室の中に居た。どうやら逆光で眩しいのは朝の時間帯だけのようだ。今は何だかこの部屋全体が別の雰囲気を持っている。
「学院長、スバルの手続きが終わったと聞いたのですが……」
レイセスが口を開く。しかし、その間に流れるのは気まずい沈黙。影による暗闇のせいで彼女の表情を読み取る事が出来ないが、あまり居心地の良いものではなかった。だからなのか、ここでは昴はだんまりを決め込んでいる。空気はしっかり読むのだ。
「ああ、確かに終わったよ。それよりも私が気にしているのは……よくもまあ、色々と騒ぎを起こしてくれたなと思っているんだよ!」
「あ、やっぱり俺か。すみませーん」
「このっ反省の色が見えない!」
「反省するところってどこなんです?」
ペンらしき金属の棒が飛んでくるが、予備動作が見えているのなら当たる訳がない。軽く避け、乾いた音を鳴らすそれを拾い上げ机に戻す。
「まったく……ほら、これが生徒証だ」
昴の飄々とした態度に怒る気力を削がれたのか、準備していたらしい一枚の小さな紙を手渡す。
「ここのもカードっぽいのな……写真とかはないけど」
裏表を確認する。大々的に描かれた紋章、昴には一切読めないがこの世界の言葉で書かれたと思われる文言がびっしりと。ただ、何となくではあるが校則や生徒である事を証明する、というような内容なのだろうと勝手に解釈。
「ありがたく頂きますよ」
「これでスバルも同じ学院の生徒ですね! それで、その学院長……学科はどこに……?」
「もちろん決まっている。何せ推薦者が推薦者だからな。それは――」
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