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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第1話
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「パラレルワールド!?」05

 逃げ始めてどれくらいの時間が経過したのだろう。走っても走っても一向に景色が変わっていないような気がする。

体力には自信のある昴であったが寝起きで朝食も摂っていない状態。一旦止めにして休憩しないか、と体は訴えている。


「さっすがに、ちょっと、疲れたな……休憩がてらどっかに隠れるっつってもこの調子じゃどこに……ん?」


 息を整えつつ歩を緩め、休憩もしようとしていたが前方から足音が聞こえた為に、急いで近場の柱に身を隠す。昴一人は余裕で隠れられる太さだ。

さて、向かってくる足音についてだが、耳を澄ましてみると余りにも不規則と言うか、危なかっしいと言うか。敵意を感じさせない足音とでも言えばいいのだろうか。

そんな訳で、そーっと覗いてみた。


「うー……俺としてはとても見過ごせない状況なんだけど……こっちも状況が状況だしな……」


 視線の先、先程の逃走の際に突き飛ばしてしまった女性と同じ服を身に纏った少女。それだけならさして問題は無いのだが、その少女の持ち物が昴の性格を、性分を刺激してしまう。それは、大量の分厚い本。小さな体の両手一杯に抱えてヨタヨタと歩いている。恐らく、否絶対に前が見えていないだろう。


「あんなの、転ぶぞ……誰か手伝ってやれよ……あーもう……! 見てらんねぇな……!」


 案の定予測は現実となった。足がもつれたのか、本が前に傾く。転ぶ数秒前だ。

 しかし見るよりも速く体は動いていた。予期していたからこその反応速度。

 

「間に……合え――!」


 地面を蹴り上げ、跳ぶ。本来であれば案ずるのは自分の身であるべきだろうが、昴にはそう出来なかった。助けた所でどうにかなる訳ではないが。見返りなど求めず、困っているから助ける。

バサバサと落ちる本の中をかいくぐり、少女へと腕を伸ばす。射程距離だ。

――しかしその姿は、昴の目の前で掻き消えた。消された、というのが正しいか。


「――捕らえたぞ侵入者」


「っ……!?」


 少女が居なくなった事で自分が廊下のど真ん中に飛び込んだ形になる。硬い床を転がり、壁に背中を打つ。男の声が聞こえたのはそれと同時。


「怪我は無いか?」


 低く嗄れた声なのに、何故かそこからは不思議な威圧を感じる。胸元に剣を突き立てられているという事もあるのだろうが。

 どうやら男は右手で巨大な剣を持ちつつ昴の動きを封じ、左腕で転びそうになっていた少女を抱えるという行動を瞬時に実行していたらしい。凄まじい芸当だ。


「はっ、はい! 助かりましたヴァルゼ様……」


「うむ」


 ヴァルゼ、と呼ばれた男の顔を見上げる。

頭部以外を銀色の甲冑で覆い、背中にはヴァルゼの身の丈と同じ程の鞘。昴の見立てであるがはヴァルゼの身長は二メートル近くだ。その鞘から抜かれた凶器は今、昴をこの場に押さえつけている。


「これは……第二書庫の物だな。エドゥ、クルーこの者を手伝ってやれ」


「承知致しました」


「騎士様に手伝って頂くなんて申し訳ありません……」


「良いのだ。そもそも重量物を一人で運ばせる方が悪い。下の者に進言してもらうとしよう」


 ヴァルゼの背後に待機していた二人が手慣れた動きで本を集めて持って行ってしまう。それを見た少女はとても縮こまってしまうではないか。立場の違いというやつなのだろう。


「お主も早く戻ると良い。何かと大変だろうからな」


「あの……ありがとうございました!」


 二、三度お辞儀をしてからそそくさと去っていく少女。それを見届けてからヴァルゼは昴に話し掛けた。


「さて、侵入者よ。今の礼の言葉、誰に向けて言ったのだろうな? 儂か、それともお主か」


「……さあね? 助けようとした俺の未遂なのか、助けたあんたの行為なのか。どっちにしろ、礼を言われて悪い気分じゃない……まあ、こんな物騒なモンが当てられてなきゃだけど」


 そんなやり取りを冷静に出来ている自分に驚きだが、それに対してヴァルゼが笑ったのがさらに驚きだ。


「ガハハハ! 面白いな、お主。名は何と言う?」


「……昴だ。諸星 昴」


「スバル……? 北国の出身か? 王都では聞いた事も無い発音だが……さて、そろそろ牢屋に入れねばな。安心しろ、飯は出る。味も保障する」


 ヴァルゼが剣を引く。立て、と促しているようだ。


「心配事だらけで何から考えりゃ良いんだかわからなくなってきたよ……」


 立ち上がり、ヴァルゼの後ろを付いて歩く。この緊迫した状況下で逃げ出せる訳も無く、昴は牢屋へと連行されるのであった。


「先程の助けようとした意志、なかなかの物だったぞ。スバルよ」


「ありがと、ヴァルゼさん」


 大柄な背中の向こうから投げられた優しい言葉に、昴はふと笑みを作る。何故か笑えた。

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