「パラレルワールド!?」46
超常的な力にどれだけ対抗出来るか、だなんて考えたくもない。考えたところでどうにかなる問題でもない。しかも眼前に居るのはとても凄い人間らしい。それをただの一端の高校生が――
「出来るとか出来ないとかじゃねえよな……よっしゃ!」
一度大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。考えるのも大事だが、目の前に壁があるならぶつかって確認してみるのが昴だ。それにもう、ファイティングポーズを取ってしまったらそれを下げるつもりもない。
「スバル、無理はしないでくださいね……?」
背中側から掛けられたレイセスの声にはそこはかとなく不安が交ざっているのが感じられる。だが、女の子に恰好の悪い所は見せたくないのであくまでも気丈に。
「大丈夫。多分な!」
「あの、少しだけ時間を貰えれば力になれると思うので、それまでは!」
「……? まあ、やれるだけ頑張ってみるさ」
始めたレイセスの力強い眼差し。言葉の意味は良く分からなかったが、それでもどうやら頼りにしても良いようだ。それにここは異世界だ。目の前で見せられた想像を絶する力で助けてくれるのだろう。ほんの少し期待もしている。
「フェノン、とか言ったっけ? 何で俺と戦うーだなんて言い出したんだ? 俺はあんたの事知らないし、別に面白い力があったりする訳じゃないぜ? 出来る事なら穏便にいきたいんだけど……あ、ごめん呼び捨てにしたかも」
構えは崩さず、対峙する改造制服を身に纏うフェノンに声を投げた。敵意がある訳でもないので言葉は選んだつもりだ。だからこその呼び捨てへの気遣い。
「……特に理由は無いよ。ただ、気になっただけさ。それと呼び捨てで構わないよ」
中世的な声で返答が来た。昴はその短いやりとりでフェノンにも敵意があるのかどうかを図るつもりだったが、この平坦な抑揚のない喋りではそれも難しい。本当にただの興味なのだろう、とここは割り切っておく。
「なら、始めるとしようぜ……!」
特に合図が無いならさっさと動かないといけない、そんな気がした昴は言葉を言い終えると同時に地面を蹴る。芝生のような柔らかさだった故に足元が滑る危険性もあったが、すんなり軌道に乗って走る事が出来た。フェノンまでの距離は五メートルも無いだろう。その程度の至近距離ではあるが、それだけあれば助走には十分足りる。
接近する昴をしっかり視界に捉えているはずのフェノンだが、その場から一歩も動こうとしていない。まるでそうする必要は無いとでも言うように。
ギャラリーからはどよめきの様なそれに近しい声が上がっている。歓声ではないのは確かだ。
初撃は真正面からのストレートを全力で打ち込んでみよう、走りながら昴は思考する。そこからは流れで身体が動いてくれるはず。あと数歩、相手に避ける意思は感じない。だったら――
「だったら、このまま打ち込む!」
地面を踏み抜くように力強く足を止め、大きく弓なりにした身体、助走で付けた勢いもそのままに、静止した反動すらも力にして、一切動く気配の無い初対面の相手を一撃で落とすつもりで。硬く握られた拳が空を裂く。昴は容赦しない。例えこれがただの授業だとしてもだ。狙いは顎。意識すら刈り取る事の出来そうなこの攻撃をどう捌くのか、そこにも興味があった。衝撃がついに訪れる。手応えはある、が。
「いってぇ……!」
堅い。堅いのだ。顎へ向かって放たれた拳は当たっている。確かに当たってはいるのだが、それが本当にフェノンの身体の一部なのだろうかと疑いたくなるほどに。全身の骨にまで衝撃が響いているようだった。何故殴ったはずの自分がここまで痛みを伴うのか、昴には到底理解が及ばない。