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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第1話
40/209

「パラレルワールド!?」40

*****



 ふと昴は昨晩のヴァルゼの言葉を思い出し、なるべく言葉を選んでアイリスへと質問を投げ掛ける。


「んと……さっきあの生徒会長も言ってた通り俺は編入生なんだ。だからこの学院のこと何も知らなくてな……ここはどういう学校なんだ?」


 自分の通う場所の知識を一切持っていないというのは少々おかしい気もするが、唐突に決まった事で仕方ないとも言えるだろう。だから素直にその気持ちを言葉にしてみたのだ。


「そんなのも知らないでこの学院に入学……いや編入か。スバルは何者なの?」


 当然の疑問だ。しかし、アイリスからは警戒心などといった雰囲気は感じられない。むしろこれは、子供のような好奇心が強そうだ。そんなアイリスのキラキラと輝く瞳に見詰められる昴は照れ隠しに頬を掻きながら、それでも約束を守るために慎重に考えて口を動かす。


「俺は……」


「うん、スバルは?」


「遠い国からやって来た頭の良くない男だって思ってくれれば」


「ふふっ……なんだそれは」


 合っていないようで合っているその解答。少々適当な感じにも聞こえるが、どうやらアイリスにはそれで十分だったらしい。愉しそうに肩を揺らしているではないか。昴はその事に少し罪悪感を覚えるが、これも約束のためだレイセスのためだと自分に言い聞かせて続ける。


「そんな奴にどうか教えてはくれないか?」


「もちろん良いよ。この学院では……んと、アタシとかは戦闘学ってとこで勉強してて、あのモルフォは確か総合学で……」


「……なあ、アイリス」


「なんだ?」


 先程までの気丈な態度から一転。たどたどしく説明を開始したアイリスに昴は目を丸くしながら横槍を入れた。入れざるを得なかったのかもしれない。


「もしかしなくても説明苦手?」


「っ!」


 昴がどうやら図星を突いたらしく、その瞬間。昴の足元が弾け飛んだ。咄嗟に回避したが、ものの数秒居た場所は見事に穿たれている。その現象を起こしたであろう本人の方へと視線を投げてみると、俯きがちに長い髪を弄りながらぶつぶつと呟いていた。


「……勉強なんて出来なくても生きていける!」


「そうだな。俺もそう思うから大丈夫」


「ホントか!?」


 肯定された事が余程嬉しかったのか座っていた場所から颯爽と降り、昴の肩を掴んで揺らす。一見するとクールな印象を与える彼女だが、話してみると表情がコロコロと変わる年相応の少女だった。


「まあ……学院の事は良いや。じゃあ二つ目の質問な?」


 学院にはどうやら科がいくつか存在しているというのは情報として得られたが、詳細情報は無し。ここはあとでレイセスに聞いて補完しておこう、と少々失礼な事を考えつつ昴は指を二本目の前に出す。


「剣闘会っての知ってる?」


「もちろんだ」


「おぉ良かった……それっていつやるの?」


 他にも聞きたい事は山ほどあるのだが、どれから聞けば良いのか判断が付かず、昴がこの世界でやらなければならない関連性の高いものを挙げてみた。確か女王が言っていた気もするのだが思い出せなかったのだ。


「そう、だな……三つの月が満ちる刻だから……」


 アイリスはそう言って空を仰ぐ。まさか見える訳もないだろうと釣られて昴も顔を上げるがやはり見えない。


「ざっと半月くらい。開催までは準備期間だな」


「半月……」


 昴の世界では今はまだ四月の頭――あくまで時間の流れが同じなら――。残り半月もあるのだとしたら帰れるのは順調に進んで中旬。いや、開催が半月なだけでもしかしたらそこから長引くかもしれない。そうなればさすがに騒ぎが大きくなってしまいそうだ。行方不明扱いなのか、などと嫌な方向に思考が働く。


「なんだスバルも参加するのか?」


「あぁ……成り行きでそういう事になった。とは言ってもやるからには全力だけど」


 言葉通り。先程も不思議な力を見せ付けられたばかりだが、それでも昴はやると決めたのだ。ここで逃げ出すなどという甘い考えは起きて来ない。


「ん? 俺も、って事はアイリスも出るのか?」


 文脈からその判断は容易だ。 確かに彼女も相当強そうではあるが。


「当たり前だろう? 今年こそは優勝してやるんだ……!」


 強く、黒い手袋に包まれた右手を握り締める。どうやら彼女は何か重いモノを抱えているらしい。個人の心の問題にまで首を突っ込める程、昴は何でも出来る人間ではない。だから昴は手助けしてやる、だなんて無責任な言葉は掛けない。聞き流すしかなかった。


「って事は、もしアイリスとぶつかる時は手加減が必要か?」


「え?」


「生憎と女の子を殴る趣味は持ち合わせていないんでね」


 それでもせめて、この場を和ませる事くらいは出来るだろう、と。


「まったく、スバルは面白いよ。初対面の相手をこれだけ笑わせられるんだからさ」


「んー別に狙ってるつもりもないけど。楽しんでくれてるなら俺はそれで良いかな」


 軽く言うが、昴の心の中では不安が渦巻いていた。自分の世界に帰るのがいつになるのか。そもそも帰る方法は分かっていないのではないか――帰る事は、可能なのか。

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