「パラレルワールド!?」36
異世界――――昴が元居た世界の事でもあり、今現在居る世界の事でもある。何の因果かこの場所に迷い込んでしまった。今回話題に挙がっているのは昴の世界の方だろうか。
「しかし、それ以前に気になる事があるのだが……」
言い淀むヴァルゼに首を傾げる二人。きっと口にするのが難しいのだろう。そこから察するにきっと身分の上下、つまりレイセスを含む発言なのだ。だからこの大男ですら萎縮してしまっているのだろう。
「私の事なら気にせずに、話してみてください」
「は……では、恐縮ですが。姫様は如何にして異世界……詰まる所、スバルの居た世界に行けたのですか? 永らくここまで生きて来ましたがそのような術を耳にした事がないもので」
年齢を感じさせない鋭さを持つその瞳には、僅かながら少年のような探究心、または冒険心に似たようなものが混ざっているようだ。
「あの、正直に話すと笑われそうで……」
何やら照れながらもじもじとするレイセス。しかし、そもそも話に置いてかれ気味の昴はなかなか出て来ない料理の方が気懸かりでまともに耳に入っていないようだ。腹が減ると思考が停止するタイプの人間である。
「でもいずれは話さなければならないので言います! 実は――」
*****
その日は学院の昇級試験の合格発表があり、無事に昇級を果たしたレイセスは束の間の休息を楽しんでいた。
しかし休息と言えど、あくまでも一国の王位継承者。勉学に励まなければ、と真面目なお姫様はある一室へ向かう。
そこは様々な種類の書籍が綺麗に収められている、謂わば図書館のような部屋だ。部屋と呼ぶには些か大き過ぎるかもしれないが。
そして偶々、その日。書架を眺め、吸い寄せられるように手に取ったのが古い魔術書。古めかしいそれは分厚く、重たかった。そして感じた、不思議な熱量。
「む……読めません……」
すっかり乾ききった頁には手書きの文字が羅列してあるが、レイセスにはほとんど解らなかった。何やら図示もされているのだが、それが何なのかも推測できない。しかし、それを良く観察してみると極稀にだが読める文字がいくつか存在したのだ。
「確か、私たちの言葉には古くからのものと新たに創られたものがあるはずです! だから翻訳すればきっと……」
勉強熱心なレイセス。誰も居ない静かな部屋をパタパタと駆け回る。何がそこまで彼女を駆り立てたのか。それは本人にもわからない。
しかし、その時彼女はこう思っていたようだ。解読してみたい、と。
それが純粋な好奇心なのか、ただの負けず嫌いなのか。
翻訳には相当の時間を要した。給仕係が持ってきてくれた食事も疎かに。だが、それでも満足のいく結果は得られなかったようだ。断片的に解読出来たのは一部の単語のみ。
「世界と……繋がり……? さすがにこれだけじゃ難しいですよね……んー……」
頁を広げたまま、両手で顔を包み込むように頬杖をつく。じっと見詰めるがやはり何も答えてはくれない。本なのだから当たり前なのだが。
「一体何なのでしょう……?」
図示された球体を指でなぞる。すると、微量だが感じるものがあった気がした。熱のような、そんな漠然とした何か。術を使用する時に似た温かさ。
「魔術……?」
まるで本が誘っているようだ。自分の持っている力をほんの微量に、流してみる。するとどうだろう。文字の一部が光を発するではないか。答えが見えてくるのではないかと、調子に乗ってもう一度。更に重ねて何度も。
次第に本自体が発光しているように見えた、そんな時だった。レイセスの視界が強烈な光に包まれたのは。




