「パラレルワールド!?」28
まるでほとんど使われていないかのような真っ白な階段が続く。歩いている感覚からしてどうやら螺旋階段に似た構造になっているみたいだ。
「しっかし……思った以上に……長くね?」
単調な行動が苦手な昴としては、同じ景色をグルグル回って見るだけなんていうのはとても退屈らしい。体力的には何ら問題は無いのだが、少し飽きが来ている。
「何だ? もう音を上げたのか?」
「そんな訳は無いんだけどな……ただひたすら歩くだけって飽きるじゃん。単調な作業はあんま好きとは言えねえかな」
「確かにそう、かもな……だけど、それを乗り越えたら良いことが待っている、と考えたら楽しいじゃないか。少なくともアタシはそう思ってるよ」
前を歩くアイリスはそう言って軽く振り向いて目を細めた。ここで昴が感じたのは、やはり彼女はどこか話しやすいという事。それとやはり綺麗だ、と。
「さあ、着くぞ。びっくりして腰を抜かすなよ?」
そんな弛んだ感情を遮るように声が届く。進む階段の先、射し込む陽光が仄かに暗い場を照らしていた。
「ここが、アタシの好きな場所だっ!」
身のお気に入りを披露すべく、大きく手を広げたそこは、外。しかしただ外に出ただけでは何ら感動も無いだろうし、何よりわざわざ鍵を開けて階段を登ろうなどという考えには至らない。
「おぉ……こいつは凄いな……!」
昴の知っている表現で言うならそこは屋上だろうか。だが、広がっているのはビルや家屋などの無機質な物ではなく、見渡す限りの広大な自然。青々と茂る木々がどこまでも絨毯のように敷かれてあり、ここで改めて自分の居る場所が別の世界だと思い知らされる。世界のどこかにはあるのかもしれないが、少なくともこれだけ美しさと威厳を持った自然を昴は知らない。
「まったく自然ってやつは本当にすげえよ……」
ぼそりと呟いた少し弱気な発言は大きな空間に呑み込まれて消えていく。そんな言葉が聞こえていないアイリスは何の気なしに楽しそうに話し掛けてきた。
「どうだ? ここなら授業を受けていない罪悪感とかちっぽけな悩みとか……そんな良くない気持ちなんか吹き飛んでしまいそうだろ?」
「まあそいつは確かだな……はは、良い場所じゃねえか」
その言葉に不思議と笑みが零れる。昴の抱えている問題は決して小さな物とは言い難いが、この景色を見ていると確かに和らぐような気がする。実感させられたり、忘れさせたり、自然というのは何らかの力を有しているのではないだろうか。
「お、気に入ったみたいだな? アタシが見込んだ通りのやつだよ」
「そいつはどうも。誉められりゃ悪い気はしねえよな」
「それにこのアタシが誉めてるんだから、得しか生まれないよ?ここに入れる学生だなんてアタシと……気に障るけどモルフォくらいだし」
話しから察するに、どうやら自分で持ってきたらしい椅子に腰掛けるアイリス。無駄に深いスリットから白い足が投げ出されるのも気にせず足を組むので、昴は目を逸らすしか無い。
「モルフォ、ねぇ……あの生徒会長は何か好かないなー……ってか色々と聞きたい事があるんだけど、良いか?」
「ん? アタシの知ってる範囲なら構わないよ?」
聞きたい事は山ほどある。レイセスに聞いてもまだまだ足りないくらいだったのだから。あわよくば学園の案内役もしてくれれば、との期待もあるが。これはどうなるかわからなかった。何せ、彼女は『不良』的な言い方をされていたのだから。
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