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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第1話
26/209

「パラレルワールド!?」26

*****



 アイリスに引っ張られる形で逃走した昴は、正直引き摺られないようにするので精一杯だった。女子とは思えない程の力で連行される中、ようやく口を開いた。


「ちょっ……ちょっと、止まってくれ……!」


「ん?」


 珍しく息を切らしながらそう言うと、やっと気付いてくれたらしいアイリスは掴んでいた手を離して立ち止まる。


「何だ……セルディとやり合おうとするくらいだからそこそこ体力もあるもんだと思ってたけど……」


 風によって少しだけ乱れた髪を無造作に掻き上げながらそんな言葉を漏らす。

昴としてはこの程度全然大丈夫だ、と言い張れるはずだったが――距離を含め、体力面に関しては――、アイリスの予想以上の力と、それに振り回されながらの状態で他の生徒に極力当たらないようにするという気配りで、案外消耗してしまったのだ。


「仕方ないだろ久し振りに走ったんだから……それより、どこまで行くんだ?」


 どの道をどんな風に走って来たのか、全くわからない。しかし、どうやら人気が少ない所で、今まで見ていた場所よりかはどこか古臭いと言うか。そんな場所だ。


「ここらは資料棟って言ってさ……ほとんどの生徒が寄り付かない廃れた場所だよ。格好の隠れ家さ。学院の中だけでは生粋のね」


「ふーん……確かに、こんな暗い場所に好き好んで来るような奴は予想出来るわな。よーく分かるわ」


 軽く自嘲の笑みを浮かべながら辺りを見渡す。木で作られた天井や壁。全面に絨毯が敷き詰められていたはずの床は、ここには無い。

剥き出しの冷たい質感の石のような板が、聞こえは悪いが適当に置かれているような印象。まさにそこは、『いかにも不良生徒が集まりそうな場所』である。


「こういうとこは……嫌い、か?」


 何故かアイリスは寂しそうに、連れて来た事を後悔しているかのように、呟いた。


「いや、むしろ馴染みがあるような感じがして俺は心地良いよ。休むには絶好の場所じゃね?」


 周りを確かめるように歩きながら、昴はそう答える。この返答は事実だ。


「そ、そうか……お前は、本当に珍しいよ」


 またアイリスは消え入りそうなか細い声で呟く。静かな場所なので丸聞こえだったが、何か意図があるのかとも思い、ここは聞き流す事を選んだ。誰しも思うところというのはあるので下手に口を挟まないのが昴である。


「ってか、資料棟って言うくらいだからそろそろそれらの類に出会っても良いような気がするんだけど?」


「心配しなくたってすぐに呆れるくらいの量が見えてくるさ」


 二人並んで歩いていくと、その先にはやはり木で出来た小さな扉が現れた。

昴はその扉に手を掛け、開けようとするのだが――


「あ、あれ? 開かないのかこれ?」


 ――押しても引いても、まして横に動かしても木が軋むだけで一向に開く気配が無い。この数日で筋力が落ちてしまったのだろうか。


「ふっふっふ。こいつにはちょっとしたコツがあってな?」


 怪しい笑みを浮かべたアイリスは扉から半歩下がる。


「はあ? 何を――」


 する気だよ、と続けようとしたがその言葉は発せられる事は無かった。昴が呆然と口を開いたままになってしまったからだ。


「こいつは、こうやって開ける!」


 長いスカートが捲れ上がるのも気にせず、その細い足で渾身の蹴りを繰り出した。革靴が炸裂すると豪快な音を立てて扉が開き、中が晒け出される。


「どうだ、スゴいだろ?」


 満足気な顔で言うアイリスに、乾いた笑いを返す事しか出来なかった。

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