「パラレルワールド!?」24
「おい、お前ら無視してんじゃねぇ――」
「そこまでだよ」
三人を無視して和やかな空気を作り出した昴とアイリスを見て、更に苛々を募らせたセルディが怒気を孕んだ声を張り上げようとした途端。それとは正反対の穏やかな声で制止が掛かる。
「ちっ……早いお出ましじゃねえか」
「そりゃあこれが僕の仕事だからね」
「ああそうかよ……」
セルディたちの背後、不意に現れたのはこれまた端正な顔立ちの少年だ。くすんだ金色の髪に、灰色に近い瞳を持ち、制服は他の生徒とは違ってロングコート風に仕立て上げられている。そしてその周りには数人の男子生徒が取り巻きのように彼を囲んでいるのだ。昴は何なのか理解出来ず、アイリスへと疑問を投げる。
「なあ、あいつは一体……?」
「あれはこの学院の……生徒会のヤツらだよ。アタシやセルディみたいのから見たらただの天敵だよ。と言うか知らないの?」
「ちょっと事情があってな。それで、つまり真ん中のが生徒会長ってことか?」
アイリスが言う通りの物を、昴は知っている。どうやらこの世界の学校にも似たような仕組みがあるみたいだ。ただどこか権力の臭いがする。
「とは言っても、今日用事があるのは――」
セルディと言葉数少なく交わされていた会話が唐突に終わり、スラリと細長い腕がゆったりと上げられ、昴の方へ白い手が向けられる。
「――君だよ、編入生くん!」
「は? 俺……?」
突如指名を受けた昴は意味もわからず、きょとんとした顔に。
「ああそうさ。先程学院長からご通達があってね。『時間があったら編入生を案内してあげろ』と」
「編入……なるほど。スバルは編入生だったのか。通りで見ない顔だなと思ったよ」
「ん……まあまだ正式では無いらしいけどそうなるっぽいな。……案内っつったけど、生徒会長さんよ?」
何やら今の発言に気になる所があったらしく昴は生徒会長から投げられた言葉に疑問を示す。
「その前に一つ良いかい?」
今度は昴に向けて掌を見せ、制止の合図。生徒会長を名乗る割にはなかなか自分勝手だ。
「僕の名前はモルフォ・クレイと言うんだ」
「……そうかい。でだ、生徒会長さん。あんた本当に案内なんて依頼、あったのか?」
「貴様、モルフォ様に何て口の効き方を……! せめて名乗らないか!」
話の腰をポッキリ折られてしまった昴は適当に流して自分の話を突き通そうとする。その言動を目の当たりにした傍らに居た男子生徒は怒り、身を乗り出そうとする。周囲の見物していた者たちも、セルディたちですら昴の言葉には目を見開いていたのだ。 ただ、この場で笑みを作っているのは生徒会長のモルフォと昴。モルフォは今にも手を出しそうな男子生徒に目だけで止めるように促し、退却させる。それを行ってから上品に口を開いた。
「何故、そう言えるのか聞いても構わないかな編入生くん」
「もちろん聞いてもらうぜ。理由はただ一つだ……俺はあのガキ――じゃない、学院長に言われたからな。『迷う程じゃないから好きに回れ』って。この通りじゃねえけど、似たようなニュアンスだ」
「それで?」
柔らかな笑顔で聞くモルフォ。その顔はとても愉しそうだ。
「つまり、生徒会長さんは個人的、または組織的に用事があるんじゃねえかって算段だ。あくまでも俺の勘だけどよ」
「君は……どうやらそこそこ頭が回るタイプの人間みたいだね? 僕はそういう人、嫌いじゃないよ」
「な!?」
ふわりと跳ぶような一歩で瞬時に間合いを詰めるモルフォに驚きで動くことすら出来ない昴。手を昴の頬に沿わせ――
「爆ぜろ!」
隣で腕組みをしながら話を聞いていたアイリスが、それを見た途端に発した単語。頬に赤みが見えたのは恐らく気のせいだろう。そしてそれは言葉通りの意味で、モルフォの居た地点に小さな爆発が巻き起こった。爆風でよろける昴の首根っこを掴んで引き寄せた。
「お楽しみの途中で悪いけど、スバルはアタシが先に目を付けたんだ。ここは退いておきなよ?」
引きずられる形になってしまった昴。上手い具合にネクタイが首に入り、とても苦しそうだ。
「劣等生に将来有望な編入生を任せて欲しいって?」
「男好きに任せるよりはマシだと思わない? それに、アタシの方が年上だよ」
「……知っているよ。でもこの学院は実力が全て。僕が生徒会長と言うことも配慮して欲しいね。君や兄さんよりも上に居るってことを」
「言うね。総合的な力量ならアタシの方が上だと思うけど?」
先程の昴とセルディよりも険悪な空気が流れ、食堂を凍り付かせる二人。そんな中、声を出したのは意外な人物で――