「パラレルワールド!?」23
目を覆いたくなる程の強く、眩い光が瞬く。それが収束すると、三人の手には何やら余り見慣れない物が握られていた。剣、槍、そして鎚。それぞれが鈍く冷たい印象を与える、昴が知る上での武器だった。
今更驚くつもりは無いが、さすがに武器まで持ち出されてしまうと――突如として現れたのだから持ち出すは不適切かもしれない――太刀打ち出来ない。かと言ってあんなに大仰に啖呵を切っておいて退くというのはプライドが許さなかった。
「さぁて派手にやらせて貰おうじゃねえか……!」
両刃の剣を携えたセルディが一歩、また一歩と間合いを詰めて来る。しかし昴には何ら対処の術も案も無い。このピンチをどう切り抜けるか……。
(ここは学校だ……やられても痛めつけられるだけだろうけど……やっぱり負けるのは癪だわな……!)
右足を後ろに引き、拳を構える。策は無いし、思い付かない。ならば、土壇場での本能と才能に賭けてみよう。どうしてだろうか。凶器を突き出されているというのにまたもや冷静な頭の中。
「何か隠してるんだったらさっさと出しとけよ。まあ見せられない内に終わっちゃうんだけどなァ!」
口角を吊り上げ乱暴な笑みを作ると同時、剣を頭上に掲げる。耳に入るのはざわめきと自分の心音。緊張と恐怖で妙に気持ちが高揚し、不思議と頭は冴える。今なら寸でのところで避けれるかもしれない。わざわざ引き付ける理由は周りの二人からの追撃を予想してだ。空を裂き、攻撃的な意志を持った刃が迫り来る。視覚、聴覚を最大限に研ぎ澄まし、その機を待つ。
(避けて……殴る……!)
「ハッ! 棒立ちかよォ!」
周りのざわめきが悲鳴へと変わろうとしたその時だ。
「良い加減にしないか、セルディ? 飯がマズくなったぞ?」
低めの声が割って入ったかと思えば、昴とセルディの間に生まれたのは強烈な爆発。急の出来事に対応しきれなかった二人はそれぞれ正反対の方向に吹き飛ばされてしまう。何度か床を転がり、テーブルの脚に頭をぶつける昴。少しふらつくことはあるが、立てない程ではない。すぐに体勢を立て直し、爆発で煙っている中心点を目を細めて確認する。
「今度は何だって言うんだよ……何回俺を驚かせるつもりだ……?」
反対側、セルディとその仲間も一カ所に集まって同じように視線を向けているようだ。
「“炎魔”の……!」
「悪いなセルディ。アタシの食事を邪魔した罰だよ……それと、その名前で呼ぶのはやめてくれない? 嫌いなんだよね」
「知るか……」
「そこのお前は……知らない顔だな?」
煙が晴れ、視界に映ったのは、身長の高い――綺麗な女子生徒だった。
「それにしても、よくもまあ素手で挑もうとしてたよなぁ。アタシなら絶対にやらないけどね……」
第一印象は美人。高身長でスタイルも良いし、顔立ちも整っている。腰程まである黒い髪――昴としては久しぶりに見た髪色でもある――も手入れが行き届いているらしい。ただ気になるのは他の生徒に比べてスカートがやたら長いことだ。これには既視感を覚える――
「女番長ってやつか?……まあ良いや……」
ぶつけた頭を掻きながら昴は続ける。ただの勘だが、きっと彼女に戦意は無いだろう。それに女子とやり合おうだなんて野蛮な考えは持っていないのだ。
「俺は昴だ。諸星 昴な」
だから名乗る。
「ん。自分から名乗るだなんて珍しい……面白いヤツだなっ」
まるで何事も無かったかのような空気が流れているが、まだセルディたちは武器を手にしているのだ。それを無視して歩みを進める彼女は笑顔。
「アタシはアイリスだ。よろしくな」
そう言って手を差し出して来たので、昴も拒む理由は無くその手を握る。強気な言葉とは打って変わって相応に柔らかい手だった。




