「パラレルワールド!?」22
「生意気な野郎だなぁ……オイッ!」
セルディが昴に拳を打ち込むため、力の限り腕を振り上げた。至近距離。助走はほとんど無いが威力はありそうだ。
あっと息を呑む周囲の人間を完全に無視して昴は咄嗟に行動。 真っ直ぐ顔面に向けて飛ぶ拳を軽く払う事で力を横に逃がし、若干の隙が出来た所で力の行き場を失った腕を掴む。
「なっテメェ……!」
「ちょっとばかし痛いだろうが……お前みたいなバカにはちょうど良い鉄拳制裁だ!」
僅かな均衡での会話。それを崩して昴の動きは続く。掴んだセルディの腕を自身の側に引き寄せ、体を半回転。背中をセルディの体へと付ける。昴はこの技を独学と経験だけで身に付けた。
「背負い投げって知ってるか? 知らないだろうけどな……受け身、しっかりやらねえと……痛み、酷いぜ!」
腕を引っ張るようにしながら体を傾けていく。きっと知らないだろうから、と抵抗される心配もしていない。だから足を入れたりするなどの動作は含もうとはしなかった。ただ純粋に力だけで、地面へと叩き付ける。重力に引かれて落ちる体。
「かッ……は……!」
肺にあった空気を全て吐き出したかのように迫る、窒息状態。叩き付けられた背中は痛みこそ無いが、満遍なく熱く、ヒリヒリとした感覚が支配。しかも自身の体の上には昴が乗っている。床と体で挟み込むような攻撃だ。
「セルディ!?」
「おいおい……あんた、無茶やってくれるねェ? さすがに今のを見てて動かないとでも思ってないよな?」
「悪いが痛い目を見ないとわからないようだ。……やるぞテト」
仲間をやられて気が触れたのか、地面に転がっているセルディを、それを押さえつけている昴に対して強烈な視線を送る。
もし昴が普通の一般生徒で、ただの気まぐれで事を起こしたのであれば、その殺気立った視線で竦み上がるだろう。それを確証付けるのが未だにどう対処すべきかとオロオロしている観衆と、一番近くに居る眼鏡の男子生徒だ。
「二対一だろうが何だろうが、俺はてめぇらに謝らせるぜ? 弱いヤツをイジメて楽しんでるのは不良でも何でもねえ。ただのゴミクズだ……まぁダチのために立ち上がるって姿勢だけは評価するがな」
持論であり、信念の根幹。
これだけは曲げたくないから、昴はわざわざ人を助けるという道を選んで歩く。強きを挫き弱きを助ける。相手が自分よりも強くても恐れずに立ち向かう。
「おおっと……言ってくれるじゃないの? あんたがどこの誰かは知らない。興味はあるけど聞いたりすんのは全部片付けてからになんね」
「セルディもこいつも血の気が多くてな。そのお陰で、喧嘩慣れしてしまった……どうせ邪魔は入ることは無いだろうが、巻き込まれたくないのは去れ!」
「待ち、やがれ……! 誰が仇を取れ、なんて言ったよ……カロル、テト!」
「全くしぶといよね? だけどまあこれがセルディの取り柄みたいなもんだし」
ゆらゆらと幽鬼のように立ち上がるくすんだ金髪のセルディ。どこか浮ついた雰囲気を持つ男がカロルで、逆に静かで落ち着いているのがテトらしい。
名前がわかった所で昴がやる事は決まっているのだが。
「結局こうなるか……、一人は潰しておいたら楽かと思ったが。よし、そこの眼鏡君」
「は、はい? 僕?」
「そう。君しかいないな。とりあえず俺はこいつらをぶん殴る訳だけど……守りながらやり合うって結構無理があるからさ? 離れててもらえると助かるわ」
言うと眼鏡君――名前がわからないので仮の呼称――はコクコクと頷いて昴とはかなり離れた位置に。もういっそ他の生徒も居ない方が楽なのだが。
どうやら喧嘩が珍しいのか歓声のようなものが聞こえてくる。喧しい。見世物でもなんでもないのに、と心の中で舌打ち。
「さってと……ちょっくら本気でやらせてもらうぜ。久々だから加減は出来ねえぞ?」
腰を落とし、拳を構えてファイティングポーズを取る。これまた自己流の物だ。経験が無い訳ではないが、もう我流になっただろうか。
「学内だが、止められるまでやろうじゃねぇか! 行くぞ!」
「もちろんさァ!」
「加減は、しない……!」
三人が別々に声を張り上げて昴へと対峙する。そして、各々の両手には微かな輝きが生まれ――




