「パラレルワールド!?」20
それから昴は様々な場所に足を向け、知らない物や不思議な物を散々目にした。文字や楽器、道具、そして人の肌、髪の色までも。自分の居た場所では絶対にあり得ない光景の数々。
「しっかしまぁ……どんだけ広いんだよ……」
探索を開始してからは目新しい物事ばかりで、見る物聞く物全てが新鮮でとても楽しかったのだが、この広さのせいでさすがに足が疲労感を訴えだしたのだ。かと言ってどこかに入って長居する訳にもいかずに彷徨うのみ。
「腹も減ったし……あるかわからねえけど学食か購買みたいなの探すとすっか……さっきは右に曲がったから次は左にしてみよう」
このような感じで適当に気分と勘だけを頼りに歩いてきた。それで不憫に思う事は無かったのだからきっと次も大丈夫だろう。
燦々と降り注ぐ日差し。ふと、窓の外に意識を向けてみる。城内ではあまり感じられなかったが、どうやらこの世界にも太陽が昇ったり沈んだりする仕組みはあるみたいだ。
「つまり……この高さならだいたい昼なんじゃないかっていう予測も立てられる、か?」
天体が同じような動きだったらの場合に限った話なのだが。確かに昴は夜、というものも経験したがこちらの世界の夜は少々特殊だった。
「んー、それにしてもこの学院は授業の間の休み時間は無いのかね。未だに誰一人としてすれ違ってないし……俺が自然に人の居ない方に行ってるのかも?」
一抹の不安を覚えながら再び歩き出す。とにかく人の多そうな場所に向かってみる事を優先だ。
*****
「おぉ……! やっと人か!」
耳を傾けてみると、段々と近付いているのがわかる。久方振りに授業の声ではなく、普通の談笑をする声が聞こえてきたのだ。その猥雑な声を頼りに歩みを進めていくと、ついに人の姿を発見。大げさかもしれないが昴には嬉しい出来事のようで。
「いきなり会話に入っていくのも別に良いんだけど……今はさり気なく付いていって飯にありつきたい。腹減った」
目の前に居るのは女子生徒二人なのだが、そこに躊躇なく入っていこうとしていたみたいだ。だが今は会話するよりも食欲を優先したいらしい。この二人がどこに向かっているのかもわからないが。
進んで行く――ストーキングなのだが――に連れどんどん人が増えていく。どうやら昴の読みは正解だったらしく、皆昼食を摂りに歩いているみたいだ。その根拠は鼻が教えてくれた。
「めっちゃ良い匂い……当たりっぽいぜ。学食的な? ……こっちのはパンの奪い合いみたいな争いは起きないのか……? 明らかに余裕に歩いてるし……」
鼻腔を擽るのは食欲そのものに訴えかけるような料理の匂いだ。そして気付いたのはほとんどの生徒が歩いて向かっているという事。昴の世界ではほぼ恒例行事と言っても過言にならないくらい熾烈な競争だったのだが、こちらには無いらしい。平和的で良いが、少し残念でもあった。
「やっぱりか……そう、なるわなぁ……」
目の前に現れたのはやはり、巨大な一室。この大人数を収容するとなるとこのくらいの部屋が必要になってくる。それにしたって広い。 どうしてここまで広いのだろうか。
「この世界は……とりあえず広い、デカいってのばっかの印象だぞ……?」
思い返すと確かに、その単語を発した回数はとても多い。それが自覚出来る程、スケールが大きいのだ。あくまでも昴に語彙力が無い訳ではない。
ぼーっと突っ立っている訳にもいかず、とりあえず進む。そこでようやく大事なことに気付いた。一大事だ。
「ん、学食ってことは……金、必要だよな?」
頭を掻き、天井を見上げる。やたら遠い天井が余計に遠く感じられた。
そんな昴を余所に、カチャカチャと食器が鳴る音に混じって何やら騒々しい場所が。そこで飛び交うのは会話とは違う、怒号のような――




