「炎の魔女は働き者!」19
「ほぉう……俺らに気付くたぁなかなかやるじゃあねえか。しかしまあ呼ばれたからにゃ出ない訳にもいかない、か。行くぞ弟!」
「オウ兄貴ぃ!」
がさがさと茂みを掻き分けて登場する人影は二つだ。
まず一人。毛先がぐちゃぐちゃに絡まったくすんだ茶髪に無精髭を蓄えた大男。しかし、それでも毛皮と思しき軽鎧を身に纏った姿のお陰か浮浪者には見えないのが不思議である。
もう一人も似たような鎧を装備していた。こちらも彼ほどではないが恰幅が良く、丸々としている。髪と髭が無いだけで少しだけ清潔感があるような気がしないでもない。だが、その頭から頬にまで走る二本の傷跡に因って大きく印象が変わってくる。
「……誰……?」
そんな見れば誰だか記憶してしまうような見た目をしている彼らだったが、どうやらアイリスには分からないようだった。首を傾げ、一応考えているらしい。それでも警戒はしておく。いつでも走れるように、と。
「かぁーっ! 俺たちを知らないのかお嬢ちゃん! そいつは人生の半分……それ以上損していやがるぜ!」
「そうそう! だけど俺らも鬼じゃない、そうだろう弟? 答えてやろうじゃあねえか!」
「当たり前だぜ兄貴!! ここで名乗らなきゃ名が廃るってもんさ!」
「え、なに別に聞いてないんだけど……」
何故かアイリスを目の前にして謎の兄弟と思しき男二人が掛け合いを始めるではないか。その様子にさすがのアイリスも困惑気味。警戒を解くべきか否かすらも判断出来なくなってしまう。
「すぅ…………聞けえぇい!! 俺らは生まれも育ちもケニマスティア村の村外れ! ガキの頃から大人の斧を持ち上げて、作物荒らす魔物に会えば一人で蹴散らした村一番の怪力男! グラーアァァァッド!!!!」
「よっ!! 色男!」
「そしてこいつが俺の大事な弟! 二人目の怪力男と呼ばれた……ダルモンッ!!」
この静かな森でこれだけの大声を出せばどうなるか、彼らは何も考えていないのか、好き勝手に自己紹介を始めてしまった。顔には出さないだろうが、アイリスは相当驚いているのだろう。完全に止まってしまっている。
「そして俺らが最高の賞金稼ぎ――――」
「「ペルトニアス兄弟!!」」
「ふっ……決まった……」
合いの手、それから謎の決めポーズ。彼らは一体何なのか。聞いているからには賞金稼ぎだという事、それから兄弟だという事、それくらいしか情報が得られなかったが。
「かっこよすぎて言葉も出ないか? そうだろうそうだろう」
(これ絶対関わらない方がいいよね……どうしよ)
「まあ俺らが何をしに来たかっていうのを教えてやろうか弟」
「了解。さ、構えろお嬢ちゃん」
「……は?」
ペルトニアス兄弟は各々の腰から直剣を引き抜くと、その刃をアイリスへ向ける。先程までのふざけた雰囲気はどこへやら。殺気を放ち、瞳で威嚇。
「簡単だ、俺ら賞金稼ぎの世界を“教育”してやろうと思ってな?」
「変な意味じゃないぞ。子供には興味ないのが兄貴だから。学生の出る幕は無いんだ、魔物に出くわす前に帰してやろうっていう、兄貴の優しさだ」
禍々しく輝く凶器。彼らは本気だ。如何わしい意味ではなく、教えようとしているのだとか。身を以って。
「ああ、そういう……」
「だから悪いとは思うなよ? ただ大人になるまで覚えておくといいさ俺らの名前を!」