「炎の魔女は働き者!」18
単独行動は気楽で良い。誰彼に構う事も無く、自分自身の意思を尊重出来るから。
そもそも群れるのが苦手なのである。勿論、自身の言動も原因の一つだったりするのだが、これはひとまず置いておこう。
故に、このような状況であってもアイリスは変わらず一人を貫くのだ。
「今宵はまず、報告された魔物に対応する為の実地調査だ。もし仮に見付けてしまった場合はどのような方法でも構わないので我々王国騎士団へと通達するように」
ぞろぞろとむさ苦しい男たちが列を成して道なき道を進む中、さも当然だと言うようにリーダーの目を盗んで別方向へ。あのような集団では魔物とやらに遭遇したとしても戦い辛いはず。
「騎士団ならそんな事はないだろうけど……」
問題はあの統率の取れていない賞金稼ぎ連中だ。個人個人の能力はそれなりに持ち合わせているのだろうが、それが全て噛み合うとは限らない。つまり、アイリスからしてみれば邪魔なだけである。
なればこそこの行動は正しいのだ。誰にも邪魔されず、邪魔をしない。
「さて今回の標的は……目撃情報がバラバラなのが気になる。大型の獣だったりワイバーン種だったり蟲だったり……もしくはその全部か」
懐から取り出したのは騎士団から提供された国指定討伐依頼書と呼ばれる書簡だ。学院で貼り出されている物の上位互換、とでも言えば良いのだろうか。
報奨金はより高く、難易度は命すら脅かす。そのような危険物が学院に貼られているのか、と聞かれればそうではなく。このような大きな事案については、学院側からの直接推薦で受けるか受けないかを選択出来るのだ。
要は国家に危険を及ぼす可能性のある事案の排除、という物騒なもの。今回に限って言えば学院生徒はアイリスのみの応募だった、という訳だ。
「どこから探そう……さすがにこの森全土を今夜中はアタシでも厳しいしな……」
言いながらも足は動く。脛を擦る草木などは気にせずに踏み抜き、顔に掛かろうとすればうるさそうに焼き払う。相手が自然であろうと容赦はしないのだ。
「んー……終盤で合流して情報だけ掻っ攫う感じでいこう。そうしよ。これが一番ラク」
使える物は使っていく。どう思われようが結局は結果が全てだ。魔物を討伐して、報奨金を貰う。いつも通り。
(そう言えばスバルも似たような考え方するんだよね……)
ふと、思い出した少年の顔。昔から変わらないアイリスの思考回路と似たような感性を持つ彼。
普段は人と行動を共にするのは気分が悪いのだが、何故だろう。彼は、彼だけは不思議と嫌ではない。
「ってなんだこのわけわかんない考え……アタシらしくない……そこに、誰か居るよね?」
まるで年相応の女子のような思考をしてしまったのを見透かすように感じたのは人の気配だ。