「炎の魔女は働き者!」17
昴が貸し与えられたのは随分と物の無い簡素な部屋だった。窓が一つにベッドとテーブルと椅子。以上だ。
昴の世界で言うところの最小限主義者とかいうやつだろうか。恐らく、否、絶対に違うと言い切って良いだろう。あのような生活は本当に楽しいのだろうか、とも思ってしまうのだが本人が幸せを感じているのなら他人がどうこう口出しするべき問題ではないだろう、多分。
「あーつーかーれーたー……」
風呂場も借り、汗やら油やらを洗い流してさっぱりしたお陰でどうも眠くなってきてしまった。ドライヤーが無いこの世界では濡れた髪のまま寝てしまうと朝が大変なのであるが、今夜ばかりはそれもどうでも良いと思えてしまう程。
久々の労働というのはなかなかに響いてくる。授業中に受けるダメージとはまた違ったものだ。疲れの質も別物である。
肉体的疲労と精神的疲労の原因は必ずしも同じだとは限らない、とは昴の言。
眠りに入るのは早い気もするが、足が向かう先にはベッド。これ以上の思考は皆無、というところだろうか。
*****
全てが寝静まった夜、こんな時分に町の外に出る人間は限られてくる。
騎士の位を持つ者、旅の者、犯罪者、それから――
「これで全員か? よし、これより戦術会議を始める」
とある町外れの名も無き森。その獣道前に集まったのは柄の悪い屈強そうな数十人の男たち。
それらを囲むように松明を掲げる甲冑が数騎。更に先頭には豪勢な装飾が施された甲冑の男。刈り上げられた短髪は夜闇であっても凛々しく輝きを放っている辺り、彼がこの軍勢の長なのだろう。
右を見ても左を見ても男だらけである。
「おい、あれ見ろよ」
「んあ? ……なんだ学生か?」
「らしいぜ。なんでも学生ん中じゃ有名な賞金稼ぎだってウワサだ。俺らほどじゃあねえけど?」
「へぇ……あんなナリで。ほんとにやれんのかよ」
ひそひそと、リーダーらしき男の話も聞かずに盛り上がるこの男たち。彼らの発言にもあるように、ここに集まったのは腕自慢の賞金稼ぎだ。金の為に仕事をし、金の為に生きる。それこそが彼らの生きる理由だ。
「……」
そんな中に一人混じっている異常。
改造を加えた制服を身に纏い、それらの戯言を涼しげに聞き流しつつも眼光は鋭く森の奥を睨んでいる、女子。そう、言われるまでも無く、アイリスだった。
このような『仕事』にも慣れている。故に彼らの言葉などあってないようなものなのだ。聞いたところで耳が腐る、と彼女は言うだろう。
アイリスにとっての他人とは、その程度。居ても居なくても、別に構わない。だからこそこの場にも一人で居る。ずっと。