「炎の魔女は働き者!」16
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「終わった……なかなかにハードだった……」
全ての客が帰り、更に閉店後の掃除やら片付けを全て終えた昴。ぐったりとした様子でテーブルに突っ伏してしまう。つい先程まで食べ滓やら水滴やらが残っていたテーブルだが、自分で綺麗に拭いたので気にする必要もないだろう、という事らしい。
「お疲れさま。見てたけど、結構良い動きしてたよ。初めてじゃないみたい」
「あはは……そりゃあかなり全力でやってましたからね……」
「はい、飲み物」
そのような不恰好をしていると、頭の上から優しい声が降ってくる。一仕事終えた昴への労いなのだろうか、何やら透明な飲料を持って来ていたドミナだった。
礼もそこそこに受け取ると一気に半分以上飲み干してしまう。どうもこの世界にも炭酸飲料があるようで、強めの炭酸が疲れた喉を刺激する。ほんの少し、痛い。だが、僅かに感じるフルーティーな香りが癒しを与えている気がした。悪いものではない。
「そうそう。お客からも評判良かったよ? アタシらも楽出来たし」
「ねー。いやはやさっすが学院の男子生徒! って感じ? 助かるよねー」
「……手を抜く場面を覚えるとこうなるのよ」
疲弊を全身に感じていたところにやって来たのはアイリスとニーナ。彼女らは慣れているからかまだまだ元気そうである。当たり前と言えば当たり前なのだが。
「常に全力で働いてたら体がいくつあっても足りないんだって絹問屋のニヌおっちゃんが言ってた!」
「あの人見習うとダメな大人になりそうだけど」
「あ、皆さんお疲れ様でした……」
そしてそんな元気有り余る二人から遅れて席に着いたのはレイセスだ。
「うっわレイちゃん大丈夫? 顔真っ白! 元々白かったけど!」
「ぅー……少しだけ魔力を使い過ぎたようでして……」
「まああれだけ便利になったら当然だよ。開店からほとんどぶっ続けで魔力行使してたんだし。アタシでもそこまでは難しいな。羨ましいくらいだ」
「あなたも良く頑張ってくれたわ。ありがとう。魔力不足って言うとこれとこれを混ぜて……」
「ありがとうございます……」
顔面蒼白のレイセス。食器洗いシステムを見事に完成させた彼女は店が騒がしくなった頃、常時魔術を発動し、使用中に改良を続けるという並の生徒、魔術師には到底不可能な芸当をやってのけたのだ。このような状態になってしまうのも致し方ない。
「ホントに白いな……厨房は怖いところ……」
だが彼女の活躍を知らない昴の認識はこうなってしまったようだ。自分の疲労度よりもレイセスの具合が心配だったが、ここで一つ気が付いた。
「あのー俺らこれからどうやって帰れば良いんです? 時間……夜中なのはなんとなくわかりますけど」
するとどうだろう。何やら白い液体を掻き混ぜているドミナが不思議そうな顔をするではないか。
「どうもなにも、学院には帰れないのだけど」
「えっ」
「こんな時間じゃ送迎もやってないだろうし、泊まっていけばいいわ。部屋は余ってるし」
確かに窓から見える空は漆黒だ。このような時分では送迎マンも眠ってしまっているだろうし、学院生が出歩いているとは思わないだろう。
「仕方ない、か」
そもそも、もう動く気力が無かった。今夜はドミナの厚意に甘えるとしよう。