「炎の魔女は働き者!」15
*****
こちらは厨房。様々な料理の匂いが充満した、ホールとはまた違った騒々しさのある場所だ。
「こっち料理上がったよー! よろしくね!」
「んー……レシピ通りにしたいけど塩足りないなぁ……何かで代わりにしないと」
働いてるのは七名の女性だ。ばたばたと慌しくしながらもてきぱきとそれぞれの仕事を捌いていく様は見ていても圧巻である。
そんな中、緊張した面持ちで居るのはレイセスだった。このような場所が初めてだというのもあるが、厨房独特の忙しさは彼女のようなおっとりとしたタイプの人間にはなかなか刺激的なのだろう。
しかし、それでも仕事は与えられているし、こなさない訳にはいかない。
「…………」
黙々と、ただ手を動かす。これも重要な役割だ。水に浸ける、洗剤で汚れを落とす、皿を拭く、大小に気をつけて並べる。
――そう、皿洗いと呼ばれる類の物。一国の姫に一体何をさせるのだ、と苦情が――昴に――来そうだが、以外にも彼女は乗り気である。
「はい、次はこれね。無理はしなくていいから、綺麗に、ね?」
「もちろんです! でも、あの、一つだけ質問してもいいですか?」
「なになに?」
一人の女性が追加の食器を持ってくる。そのついでとレイセスは思い付いた事を口にしてみた。
「実際にやってみたいんですけど……これを、こうして……えいってすると楽なんじゃないかなと思いまして……」
「えっ」
しかし説明は手間だ。現在も厨房は動いているし、彼女の手を止める訳にはいかない。だからこその実演。するとどうだろう、一瞬にして皿の汚れはなくなり、瞬く間に並べられていくではないか。
レイセスが行った事、それは――
「魔法ってやつ!? うわすごっ! めちゃくちゃ楽じゃん!」
「正確には魔術なんですけど……どうでしょう? こうすると速度も上がりますし……」
「どうしたのーってなにそれ勝手に洗ってくれてる……! あははおもしろーい!」
――魔術の使用。水道水を操作して静かな渦を作りつつ、そこに石鹸を一片。これでまずは流し台の中が食洗機が完成だ。
続いてぶつかり合わないように流れを見ながら汚れが取れた物を取り出し、そこに一瞬だけ強めの温風を送り込む事で水滴を弾き飛ばし、弱まった風を利用して皿を並べる。
二重、三重と同時に使用する魔術を重ねていくという高等技法を難なくやってのけるレイセス。これが総合学一科の生徒の実力である。
「ほーこれは凄いね……やっぱり学がある子は違うよ」
「これさ、ずっとここに出しておけたりする? ……しないよねぇ」
「こんな便利な物があるならどんどん使って構わないよ! ねえみんな!」
いつの間にかレイセスの周りに集まっていた厨房の面々がコクコクと頷いて同意を示す。それ程までに画期的な魔術なのだ。楽になる時間短縮はどこの業界でも好まれるものである。それは異世界だろうが変わらないのだろう。
「あ、ありがとうございます! ただこれを使っている間は私、ここから離れられなくて……」
「いいっていいって! その代わり、他にも便利になりそうなのがあったら教えてね!」
「はい! 私、頑張りますね!」
適材適所、とはなんと素晴らしい言葉なのか。
*****