「炎の魔女は働き者!」14
*****
「おーい! こっちに酒二つなー! あ、やっぱり三つだったわ」
「すみませーん注文したいんですけどー」
「――で、なあ? そんときの親方の顔って言ったらもう最っ高におもしれぇんだよ! お前にも見せてやりたかったなぁ」
時は流れて夜。すっかり窓の外も暗くなっているが、店内はそんなのお構いなしと言わんばかりに大盛況だ。それぞれが思い思いに飲み食いをし、歓談だったり猥談だったり相談だったりと随分と賑やかである。
顔ぶれも年代も様々。居酒屋の騒々しい雰囲気が近いだろうか。
「おし、次な。次っと」
そんな中、並べられた円形テーブルを妙に慣れた動きで掻い潜る昴が居た。汚れても良いようにとわざわざ買って貰った黒の作業ズボンに、少し皺の目立つリネンシャツのような柔らかな風合いの上着。
動き易く、それでいて店内の熱気にもそこそこ対応出来るという優れ物。
「ああそこの若いあんちゃん! 注文! こっちこっち!」
「はーい!」
昴に与えられた仕事は、所謂ホール係。注文を取って、出来上がった料理を運んで、退店した客のテーブルを片付けて。運動量はかなり多いが、集中していると時間はあっという間だ。
「やるじゃんスバル。仕事覚えるの早い」
「おうよ。これでもホール経験者なんだぜ? 規則厳しくてすぐ辞めたけどなぁ」
「言葉の意味はわからないけど……どちらにしろ経験あるって言うなら助かるよ」
受けた注文を伝える為に厨房に向かうと、この店の制服――例のメイド服風の衣装である――を身に纏ったアイリス、それからニーナとすれ違う。
現在ホールに出ているのは昴と彼女ら、それから恰幅の良いおばさんが三名。合計六名だ。客が多いながらもそれなりに余裕を持って行動出来ているのは全員がしっかり働いているからである。
「いやーほんっと助かる! ちょっと手抜いてもお母さんに怒られないし! これから毎日来て欲しい! はっ……もう住み込みで働いたらいいんじゃ……」
「ニーナはもう少し働いてくれる……? 厨房に立てないんだからさ」
「立てないんじゃないよ! やれば出来るのにやらせてくれないんだよお!」
「ほらほらそこの若い子たち! 今日はなんだかやたら多いんだから立ち話してないで働く働く!」
「なんでアタシまで怒られるんだ……」
注意されている間もしっかりと動き続ける昴。さすがは経験者と言うだけはあるだろう。
元の世界ではファミレスでのアルバイトもしていたのだ。しかし、髪型から服装、挨拶、シフトに入る前の社訓音読、とまだまだあるのだが挙げるのも嫌になる程に厳しく自分の性分には合わない、と早々に退職。
それからは他の職場を探し求めて点々。妙に変な知識があるのはそこでの人間関係だったりするのだが、それはまた別の話である。
*****