「炎の魔女は働き者!」13
「ドアは静かに開けなさいって何度言えばわかるの?」
まず口を開いたのはドミナだった。呆れたように目を伏せ、溜め息を一つ零す。
「だいじょうぶだよーそうそう壊れたりしないってば。壊れたらおじさん来てくれるだろうし。あ! アイリスだ! 今日は早いね! それから……お客さん?」
ぱたぱたと走って近付いて来たのは女の子。明朗さを体現したかのような声だった。くすんだ黄色い髪は緩いウェーブの掛かっており、どちらかと言えば気の強そうな顔立ちを柔らかくしているような印象だ。
その両手には食材か何かだろうか。野菜らしき物が見え隠れしている。
「はい、ちゃんとミルクも買ってきたよ。自分で飲んだからね」
「在庫は勝手に飲んじゃダメだぞ。アタシが困る」
「そうなの? ま、いっか。それでそれで、どちら様?」
それらの荷物をカウンターへ置くと、まるでそこに座るのが普通だったかのように座る少女。一体誰なのだろうか。関係者である事に違いは無いだろう。
「ええっと……」
「ああ待って! 当てるから! 学院の制服だから……うん、学科。当てるね!」
「こういう奴なんだ。付き合ってやって……」
顎に人差し指を当て、口を引き結びながら思考する少女。その様子を困った目で見ているとアイリスからのフォロー。
「もう、そういうのは後でやりなさい。今はちゃんとこれを片付けるのが先でしょ?」
「ええぇいいじゃん別にぃすぐ腐る訳でもないし? 面倒な事は後回し、だよ」
「……誰に似たの」
更にはドミナすら困らせる少女。表情や仕草こそ幼く見えてしまうが、先程見た限りでは女子としては長身のアイリスと同程度の背丈がありそうだ。ころころ変わる表情はレイセスに近いかもしれない。年齢相応、というところか。
「へぇー総合学……えっしかも一科なの? なにそれすっごいお嬢様じゃん……そんな人がこんなとこに……?」
「えっと結構外出する事は多いんですよ? 私はあんまりしないんですけど……」
「確かに街中にも制服の人はそれなりに見かけるもんねー。うんうん納得。あ、でもそっちの彼はあんまり高貴な気配が……どっちかって言うとアイリス寄りだよね? いやもちろん私もだけど?」
「それは……どういう意味なんだろうか……肯定しても否定しても良くなさそうな」
「アタシの事なんだと思ってるんだろ……」
どうやら二人を品定めしているつもりらしい。レイセスへの評価は当然の結果となっているが、昴とアイリスは彼女にどう見えているのだろう。
「はぁ……もういい? 今日からは店を手伝って貰うから仕事の説明もしたいし、そのくらいにしておきなさい。それからしっかり挨拶して。まだ名乗ってないでしょ」
「おぉ! そう言えばそーだったね! ではでは失礼して」
オーバーリアクション気味に立ち上がる少女。靡く髪からふわりと甘い香り。ひらりと舞い上がったスカートの裾を軽く摘みつつ、会釈を。
「はじめまして! 私はニーナ! なんとなんとここの店主の将来有望な娘さんなのです!」