「炎の魔女は働き者!」12
「これが塩、これが砂糖でこっちが胡椒。あれが油。作るのは他の人が担当するけど足りない時は持って来てもらうかもしれないから覚えておいて」
「っす」
契約書を書き終わったレイセスと昴はドミナに連れられて何やら説明を受けているようだ。目の前には袋詰めされた粉や乾燥させた食材、瓶に入った液体など様々。
厨房と言うには猥雑で倉庫と言うには綺麗であった。それでも調理場のようなのだが。
「最悪舐めればわかりますよね?」
「まあ……ただ酒には気をつけて。こればっかりは学院からも目を付けられてるから。これも他の人に聞くのが一番かな」
「そうですよねー」
だいぶ楽観的な昴に対して熱心に聞き入るレイセス。やはりこういう場所は見慣れないのようで、わくわくしているオーラが溢れ出ているではないか。やる気があるのはとても良い事だ。
しかし、昴にはこの状態に不安もあった。もし小さな失敗で怪我でもさせてしまったとしたら、と常々考えてしまうのだ。レイセスを信頼していない訳ではないが、どこまで彼女にやらせて良いのだろうか。難しい問題である。後々何かを言われたりしないようにしなければ。
「ここまで説明したけど……ちなみに二人は料理は? 出来る?」
ざっと一通りの説明を終えると先程のカウンターに戻り、煙草に火を付ける。紫煙を立ち上らせながら質問を二人へ。
恐らくこれは配属先の話なのだろう、と昴は即座に察する事が出来た。飲食店ともなれば厨房かホールと相場が決まっているのだ、と。どちらが楽でどちらがキツいなどはほとんどなく、どちらもキツいのである。悲しい事だ。
「出来ない事もなくはないっすけど……最近はまったくしてないですね。包丁なんて触ってもないですよ?」
これは事実。学院生活で触れる刃物と言えばカッター代わりのナイフ、食事用のナイフ、それから刃引きされた模擬剣――刃引きされてほぼ切れなくなっているはずなのだが、生徒の一部は平然と真剣同様に扱えてしまったりする――。およそこの三つだろうか。
元の世界では頻繁にしていた方だ。事情もあり、仕方なくしていたという部分もあるのだが、割と嫌いではない。むしろ頼まれればやるタイプだ。
「んー……まあスバルには厨房行ってもらうつもりはないんだけどね? 前に出て貰って力仕事だよ」
「聞く意味無かったんじゃ……与えられたらやりますけどねー」
せっかく考えて発言してみたのに少しばかり残念である。選択肢があるのならば選んでみても、と思ったのだが。この世界の住人はどこか強引な部分が多い気がする昴だった。
「じゃあレイシアは?」
そして次のターゲットはレイセスだ。もしかするとこちらも決まっているのかもしれないが、それでも質問だけはしておくらしい。
「わ、私ですか……私はですね――」
言い淀むレイセス。この場ではどう答えるべきか、と逡巡している模様。事実を言うべきなのだろう、とは思うが。
しかし、彼女の発言は全身を振るわせるような大きな音に掻き消されてしまう――
「たっだいまー!!」
明るく、強い、帰宅の挨拶で。