「炎の魔女は働き者!」07
「スバルもすっかり慣れてきましたよね」
道すがら、そんな事を言われる昴。自分でも当然自覚している部分もあるがそれが態度に出ていたのだろうか。
「まあな……何事もやってみなけりゃわかんねえよな。挑戦よ挑戦」
昴のモットーは常に前進上昇思考。どんなものでも触ってみなければ分からないものだ、と割り切ってとりあえずはやってみる。
成功もあれば当然失敗もあるし、必ずしもその思考が正しいとも限らないが大きな損はしていない。
「まっ無理なものは無理だったりもするけどなー。それで、もしかして行き先ってのはここ? 着いたなら目的地か」
「ええ、そうです! 実はここでお仕事を募集しているそうなんです」
「ふーん……とりあえず入るかねー」
レイセスが足を止めたのは教員棟に隣接した小屋のような場所。教員棟付近の探索は意図的に避けていたので全く気付かなかった。どうせ何も無いだろう、という安直な考えもあったが。
「失礼しまーす……」
木製の引き戸を開き、中に入るとまず出迎えてくれたのは壁一面に貼られた大量の紙。それから数人の生徒と、中央にあるカウンター。そこに座すは白髪の多い女性。痩せ気味で皺が多いせいか機嫌が悪いように見える。
「はいはい。ゆっくり見て行って。気になったのがあったら持って来なさいな」
その割には優しそうな声色だったので少々安心だ。そろそろと二人も入室すると近場にある壁面に体を向ける。
「なにこれ」
目は通すが、読めなかった。ただ分かったのはどれもが手書きで、筆跡によると同一人物ではないという事だ。ここには一体何が書かれているのだろうか。
ふと、レイセスに視線を送ると一枚一枚をしっかり読み込んでいるようで瞳がくるくると移動している。読めない、という事は無いらしい。
「えっと、これが猫探しでこっちが犬探しです。それからこれが薬草摘みに調合……あ、掃除なんていうのもありますね。これは、店番……?」
それから指差ししながら昴に説明を開始。
するとどうだろう、昴の眉間に皺が寄っていくではないか。
「だいたい理解した。これはあれだ初心者クエストだ。ここに書いてあるのが報酬金額、それから成績……実績かな? そんな感じのだろ? バイトの募集みたいなもんか。簡単そうなのを選んで実践してみるってのもありだな」
そう、昴の言うようにこの壁面に貼られているのは仕事の依頼書。仕事内容、応募資格、期間、報酬。たまに依頼主のコメント、といったところだ。とても分かり易い。読めないのが玉に瑕。
「さすがにスバルは理解が早いですね……では、せっかく来ましたし何か受けてみますか?」
「そうだな、良いのがあれば。危険も無さそうなのが良いな……そんなの無いだろうけど」
少なくとも学生に危険な仕事はさせないだろう。学院長以外は、と付け加えておく事にしよう。
「あの、ありましたよ?」
「えぇ……聞きたくないけど、なに?」
「魔物退治、ですね……」
「……パス。無理だろそんなの……魔物て。存在するのなぁ……こわいこわい」
物騒な単語は耳に入れないようにしなければ、また厄介事に巻き込まれてしまうかもしれないという危険察知能力が発動。これは見なかった事にしよう、と次の依頼に目を通そうとした時だ。
「じゃあそれ、貰って良い?」
「ん?」
後方から声を掛けられた。紙の束を抱えて、誰だか分からないが。