「炎の魔女は働き者!」06
「あー……そいつは予想してなかったな……」
考えてみればあり得ない話ではない。何せ身分が身分なのだから。一国のお姫様が自分で金銭を管理しないだなんて別にどうという事はないのだろう。周りが過不足なく用意してくれるのだから。
そのおこぼれを戴いている昴がどうこう言える問題ではない。自分でもすっかり順応しているな、とは思ってしまうが。
「すみません……お力になれず……」
そんな昴の表情を読み取ったレイセスは申し訳無さそうに肩を小さくしてしまうではないか。しかしここは昴得意のフォローの出番。
「気にする事はないと思うぞ。俺が考えなしに使ってただけだし。教えてくれて助かったよ」
わざわざ表に出て来て貰った事への感謝はしなくては。すると暗かったレイセスの表情にもぱっと光が戻り、それから何かを思いついたように目を輝かせた。
「一つ、お金を稼ぐ方法があります! 私は使った事がないんですけど、スバルさえ良ければ行ってみませんか?」
「二つ返事でオッケーするぜ。どうせ俺は暇だからなー」
「では早速行ってみましょう! あ、ついでにお昼でもどうでしょうか?」
「んーそうだな。腹も減ってくる頃だろうし……まずは動くかね。どっち? あっち?」
「反対ですね……ともかく、私に付いて来てくださいね」
金が稼げるとなれば断る理由もないだろう。それに休みになってしまえば昴は完全にフリーになってしまうのだ。特に目的もなく学院内をふらつくと何をしているのか、としつこく聞かれる。かと言って一人で学院の外に出る勇気が無い。
そうなると部屋で大人しくしているしか無いのだ。アクティブタイプの昴からしてみると相当な苦痛なのである。
「そう言えばスバルは何にお金を使っていたんですか?」
横を歩くレイセスは顔を覗き込むように聞いてきた。純粋な疑問なのだろう。
「パン。菓子パンとか惣菜パンとか……資料棟の裏の方で売店やっててさ。結構美味いぞ。俺はカレーパンのような物を作ってくれってお願いしたんだけどさ」
隠す必要も無いので正直に事実を告げる。偶然通りかかった際に発見した露店。面識も何も無い男性が店員の、小さな露店だったが売っている物はかなりの一品。
甘い物から辛い物まで各種取り揃えており、学生の小腹を満たすには丁度良かった。
故に、買い食いを続けた。値段など気にせずに。毎日のように。自分の他にも数人が買いに来ていたようだ。
「あとあんぱんみたいなのも美味かったなー。今度レイセスにも買ってくるよ」
「あの……」
「え、あれなんかマズイ事言ってる? それともパン嫌い?」
「い、いえそういう訳ではなくてですね……その……」
各パンの感想を述べていると何やら気まずそうに言葉を挟むレイセス。
「そのパン屋さん、最近噂で聞いた許可を取っていないお店ではないでしょうか……? 値段も相当、その、高いらしいって……」
「……」
確かに言われてみればそうだ。他にも学院内で営業をしている店はあるし、それらは大々的に宣伝もするしスペースも確保されている。しかしあの露店はそうではない。人目につかないひっそりとした場所に、ぽつんと置かれた小さなテント。
まるで何かから隠れるようではないだろうか。
まさか。まさかとは思うが、自分が?
「騙された、のか……!?」
味に偽りが無かっただけに悲しい事実が判明してしまった。
そして生まれて初めての詐欺被害。なかなかの精神的ダメージだ。
「くっ……こうなったら意地でも稼いでやる……!」