「炎の魔女は働き者!」03
「ああ……まあ、な……」
昴が言い当てるとどうもばつが悪そうにカウンターに肘を突く。その理由が定かでないので首を傾げると、ケンディッツの後方から声が投げられた。寮の職員だ。
「ケンさん昔は凄かったらしいんですよねー? 噂でしか聞いた事ないですけどどっかの国で警備隊やってたって」
「警備隊……」
「ただの噂だ。そんな対したもんじゃねえ。あんまり喋ると仕事増やすぞ」
昴の頭を過ぎるのはヴァルゼのような騎士みたいな存在。それと警備隊とやらは違うのだろうか。ケンディッツは面倒臭そうに否定するが、少し気になってくる。
「あっそう言えば前に俺のケンカ……ううん殴り方もとい戦い方に興味示してませんでした?」
再び掘り起こしたのはつい先日の事。レイセスの力を借りて人形を破壊した時だ。
「違うだろお前が聞いてきたんだよ」
「あれそうだっけ。どっちでもいいっすよねぇ」
「おい……確かにお前の事も噂で聞いてはいる。似たようなやり口だってのはな……ああだから手甲か……どこの武術なんだよ」
どうやら昴の記憶違いではあったらしいが、細かい事は気にしない。そしてやはりケンディッツは昴の戦闘術に興味があるのは間違いではないようだ。
「んー……俺の、はなんだろう?」
「俺が聞いたんだけどな」
「それはわかってますよ? わかってるけど改めて聞かれるとって感じです。ただの我流というか人の話を聞いて実践して、プロレス技も混ぜて格闘技雑誌読んで真似して……」
自身の経験。一度、レイセスにも聞かれた事があったか。
確かに当初は真面目に目指した場所があった。残念ながらそれは中途で狂ってしまったが、だからこそ今の自分の技術があるのも事実。しかしそれが武術だとは言い難いし、そう言ってしまう事は他の人々に失礼だと。
故に、何なのかと聞かれてしまうと返答に困ってしまうのだ。
「うーんやっぱりなんとも言い難いっすねぇ……」
「事情がありそうだが聞かないぞ。仕事が増えそうだ」
「いえ別にそういうんじゃないんですよマジで。話せない訳でも話したくない訳でもないし」
「面倒だな……だけどお前あれだろ? 剣闘会、出るんだろ? そんなあやふやな状態で良いのか?」
「やっぱマズいっすか……自覚はしてたんだけどやる事が多くてですね」
剣闘会。時折出て来るこの物騒な名前。着々と日にちが近付いているのは理解しているし、実感している。だがだからと言って何をすべきか、と考えると思い付かないのは現実だ。それにここ最近は人形襲撃事件に駆り出されていたし試験もあった。なかなかレイセスにも相談出来ていないのが現状。
「これも相談しとこ……」
「まあ、なんだ」
そんな昴の不安げな表情を読み取ってしまったらしいケンディッツ。溜め息を吐くと再び言葉を続ける。
「……暇があったら協力してやらんでもない。自分でも思ってもない事を言っちまったな」
「いいんですか? 仕事……」
「どうとでもなるだろ。俺はお前の戦い方が見たい。それでどうするか決める」
相変わらず面倒臭そうに虚空を見詰める。偶々話し掛けたからなのか、それとも他の生徒に比べて昴が話しやすいからなのか、はたまた他に理由があるのかは判別出来ないが協力をしてくれるらしい。
「じゃあ……お願いしまーす!」
「ああ、ああ。休みが出来たら教える」
協力者を思わぬ形で発見した昴は心強い味方を得た、とガッツポーズ。
「あー出掛けるんだったか……こいつは預かっとくぞ」
すっかり話し込んでしまったが目的地はここではない。忘れてしまうところだった、と慌てて頭を切り替える。ばさばさと適当に仕舞われる自分用装備を見ながら、一言。
「あざっす!」
これでも十分感謝の言葉である。下手に堅くなるよりもこの方が自分らしいから。
そんな昴の言葉を受け取るとケンディッツはそそくさと奥へ戻ってしまうので、昴もようやく出発だ。