「パラレルワールド!?」18
「無茶をする奴だなぁまったく」
小さい服に付いた埃を叩いて落とすと、学院長はそんな言葉を吐いた。
「どっちがだよ……いきなり襲い掛かるなんて……」
急激に体を動かしたせいもあり、昴はその場に座り込む。やはりこちらもちょっとだけ埃などが付着している。地面を転がったのだから当然といえば当然だ。
「しかしよくもまあ、あの状況で保身に走らなかったな? 普通ならそうするだろうに」
「体が動いた。それだけだって」
「くっく……面白いな。本来であれば編入させるには学力試験やら術試験やら能力試験など様々な手続きが必要だが……」
体を愉快そうに揺らしながら、昴とレイセスを交互に見る。レイセスは言葉を少し頭の中で考えたらしく、徐々に表情が明るく変化。対する昴は謎の試験項目があったらしい事に顔を顰める。一体どのような試験なのか、想像もつかない。
「特別に、特別にだぞ? この私、ルシール・ヘンナ・ヴァータイネンが編入をこの場で許可してやろうじゃないか。感謝するんだな! モロボシ・スバルよ!」
「感謝も何も……いやまぁそれで解決なら別に良いんだけどよ……」
「良かったですねスバル! これで同じ学院に通えます!」
「お、おう」
何やら煮え切らない様子だが、正式に編入出来る事が決まったらしい。レイセスも喜んでいるみたいなので良しとしておこう。
「だが、書類に関してはさすがに作らねばならないか……」
「……つまり、どういうことだ?」
「一応君はもう我が学院生であることに変わりはない。しかし、その他手続きが終わるまでは……言わば仮の生徒になってしまう。授業に出ることはかなわないということだな」
昴としては正直いきなり授業に出るだなんて勘弁したい。絶対に自分が居た場所とは違うことをやっているだろうし、言語は何故か通じているが読んだり書いたりはわからない。文字までは確認していなかったのを思い出して後悔している最中だ。
「えっと……その作業はどのくらい掛かりますか学院長?」
「最速でも今日の終わりまでは掛かる」
「なるほどなぁ……それで、俺はどうしたらいいんだ? 暇人になるけど」
「そう、だな……適当に学院探検でもしてるといいぞ。どうせ授業が始まれば見て回る暇などほとんど無いだろうからな」
然程考えずに適当に答える学院長。
「じゃあ、私が案内を――」
「いいやレイセス、君はしっかり授業に出ないと駄目だ。もう授業も始まっているんだからな。自由に見て回らせるといい。全部見るのは難しいぞ」
「でも迷ったら大変ですし……」
「そう簡単に迷う程広くは無いだろう。だから一人で行かせてやることだ」
不安そうな瞳が向けられる昴。どうやら道には迷わないというのでこう答えた。恐らく正解だろう。
「俺なら大丈夫だ。むしろ一人で回ってみたいっていうのもあるしな」
「うぅ……スバルがそう言うならそうします……」
「それではここで解散としよう。レイセスは授業を頑張り、モロボシは学院内を回る……これでいいな?」
その言葉を聞いて二人は学院長の部屋を後にした。
「それにしても、小さかったな……」
ボソッと聞こえないように呟いて。