「炎の魔女は働き者!」01
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成るべくして成った、と言うべきだろうか。この禍々しい“能力”を操る様は、きっとそのように見えたのだろう。魔法とも魔術とも魔導とも似つかないそれを称するには“能力”というのが相応しい、と自身が感じ取った。故に、そう呼んでいる。
幼い頃から止め処なく溢れて来るこの“能力”。当初は何故自分にこのようなモノが、と悲観していたのだが数年程前からは考えるのを止める事にした。消え去る事が無いのなら、せめて使いこなしてやろう、と。
そうすれば、いつの日か――
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「うーむ……」
昴は机に向かって唸っていた。彼の頭を悩ませているのは目の前に並べられている色とりどりの丸い物体。硬貨だ。形も大きさもばらばらのそれを睨みつけ、ひたすら唸る。
しかしただぶち撒けた、と言う訳でもなさそうだ。同じ柄の物を並べて、重ねて、なにやらその横に殴り書き。
「どうしたの?」
そんな昴を見兼ねた同居人のカルムが歩み寄ってくるではないか。最近では昴の生活スタイルに合わせて部屋の中では靴を脱ぐようになっていた。最初は違和感があったようだが、慣れてくればこの方が良いとまで言うように。
彼もなかなかに適応力がある人間だ。
「どうもこうも……あのさ。俺、これ貧乏じゃね。金欠じゃね」
そう、昴が悩んでいたのは手持ちの金銭事情。正確な価値が判断出来ない――日によって変わるという物だ――代物ではあるのだが、食事換算で大体の金額を計算しているのだ。
ここ数週間で学院内でも買い物が出来ると知った昴は時折そこに赴いて買い物の練習をしていた。勿論、物のやり取りには金銭が発生している故に手持ちは減る。解っていた事だ。
「帰りの買い食い最高」
「え?」
「なんでもない……で、よ? これじゃあまともに夜ふかし用お菓子も食えない訳じゃん? はっ!? 高いのか? これ外で買う方が安いのか!? そんな嘘だろお前……学校の中なんだからちょっとくらい安くしとけよ……」
「ちょっと落ち着いた方が……あ、これはその、何と言うか……仕送りとか、無いの……?」
昴の手持ち金から何かを察したらしいカルム。落ち着くように言うのだがどうもその気配がない。確かにお金が無いと考えると非常によろしくない状況である。
「……あんのかな? 銀行はあるって商学で聞いたから……ああ口座。無いんじゃね? 聞いてくるか……」
授業で金銭の流れについてを学んだ記憶はある。しかし、この世界のルールが昴に適用されているかと言えば。恐らく、されていないのだろう。これに関しては知っている人間に聞くのが一番だ。幸いにも今日は休日。
「スバルって……不思議だよね」
「俺からしてみりゃここの連中の方が不思議人間だわ」
「あはは。それもそう、なのかな?」
「あーもおーゆっくり休めるかと思ったのに……ちょっと出掛けてくるよ」
制服の上着を羽織ると気怠そうに立ち上がる昴。どうやら行く宛があるようだ。
「うん。あ、そう言えば今日の夕食はお肉だったような」
「マジ? 早く帰ってこようそうしよう。じゃ行って来るぜ」
何の肉かは知らないが、肉は美味い。元気が出る。だからなるべく食べたい。……昴の体も大分適応してきているようだった。