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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第3話
177/209

「人形の誇り」74

*****



「やっぱり時代はおにぎりだと思うのよ。卵かけご飯もありだけど生卵文化が無いってのはキツイよなぁ……そもそも鶏が居るのかって話か?」


 しみじみと、昴は手中に収めた白い球体――もといおにぎりを頬張りながらそのような所感を表明。しかしこれは誰に向けたものでもなく、ただ自分に言い聞かせているだけのようだ。


「そんな簡素な食べ物でいいのか……? 穀物を炊いて丸めただけだぞ……」


 そんな昴を若干引き気味で見ているのがグンだった。その体に反して食べられれば良い、腹が満たされれば良い、というタイプの人間ではないらしい。おにぎりはどうも好みとはかけ離れているようで。


「当たり前だろ! これ作るのにも技術が居るんだ……堅過ぎてもダメだし柔らか過ぎてもダメ。具と海苔がありゃ最高なんだけど塩だけでも十分美味いんだぞ! 米ってのはな――」


 熱弁である。それ程までに愛していた。おにぎりを……否、米食を。この世界に来てからというもの、パンがメイン。そこに現われたこの米と思しき穀物はまさに救世主以外の何者でもなかったのだ。パンが嫌いな訳ではなかったが、毎日は飽きる。そういうものだ。


「そう、か……あとでメルタに教えてやってくれ。ところで」


 やはり興味は無いらしく、いくつかある不揃いな球体には手を出そうとしないグン。大きな腹の前で腕を組むと口をへの字に曲げて言う。


「何しに来たのだ? もう事件は解決したのだし、ここに来る必要は無いだろう?」


「ああすっかり忘れてた。これと言った用事は無いんだけど一応どんな顛末だったのかってな? 関わったんだし知っておいた方が良さげじゃん?」


「別に好きで関わった訳ではないぞ?」


「まあまあ。連帯責任だよ」


「共犯者を増やしたいだけでは?」


「そうとも言う。で、さ。主犯の人はもう居なくなったし、それに加担してた生徒達も停学で済んでるし。まー正直に言えばつまらない終わり方なんじゃねえのかなーって思うわ。ぱっとしねえ」


 指で机を叩くようにするのは、恐らく不満の証。自分に何も出来なかったという惨めさを感じていた。皆の協力があってこその解決ではあったのだが、それはそれ。せっかくだから中心人物でありたかったのに、と心の隅で思っている。


「ふむ。我々人形遣いや人形師連中は学院内での人形起動は原則禁止なんて物まで出された故、そこまで喜んでもいられない完全なとばっちりだが」


 そう。今回の一件でグンやその他の人形遣い、当然モルフォも学院内での人形の使用を禁止するという命令が下されたのだ。授業等でのやむを得ない使用ならば問題無いとの事ではあるが、かなり厳しい規則になったらしい。


「だがメルタやルゥはあくまでも家の人間で申請してあるから問題は無いがね」


「それで通るもんなのか……」


 開き直るグン。しかし、申請が通ってしまっている以上は手出しが出来ないという事なのだろう。この辺りは昴には踏み込める話題ではないので口を噤むしかない。


「しかし、まあ今回の事件でクレイ家に対する批判が少なからずこの学院内に蔓延っている事が人形遣い家系以外の人間にも知れ渡ってしまったのだな」


「そうらしいなぁ……俺にはどうとも言えないけど。あいつらは大変なのかもしれねえな」


「そうだろうとも。親のやった事だとしても後から厄介事は降り掛かってくるのだからな。私も日々を恐々と暮らしているよ」


 あくまでも声色は飄々と、淡々と。大きな手でティーポットから茶を注ぐ。眼鏡の奥にはどのような感情の瞳をしているのか。わざと湯気で隠しているのだろうか。


「ふぅん……あとさ、最後にな? これ聞いて良いのかわからねえけど、教えて欲しいんだわ」


 そんな様子を気にしてか、それとも自分の疑問を投げ掛ける為か、少しだけ謙虚に昴は言った。


「アレクさん……あの人が言ってたんだけど。人形遣いの誇りを折られたって。それが大きな原因だって。誇りってなんだ? そんなに復讐に駆られるようなもんか?」


 去り際に放たれた言葉が何故か胸に残っていたのだ。


「……そうだな。もし奪われたなら、壊されたのなら。復讐の鬼になってしまうかもしれないな。道半ばで息絶えたとしたら、生き返ってでもやり遂げたい。それ程までの覚悟を、生涯すら捧げても良いと言える信念を持っているものだよ、我々は。半人前で邪道を行く私がどうこう言える立場では無いけれどね」


 何者にも屈したくない絶対不撓の精神。夢、希望、願望。それらを貫く為の覚悟。自分の道を歩く事への誇り。人形遣いを名乗る人間達にはそのような気概があるのだ。

 だからこそ、アレクは変わった。失って、変わらざるを得なかった。壊れた幻想、野望、復讐。彼の心に渦巻いていたのはこれらの感情だろう。だと言うのに。最後に彼は――



*****

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