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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第3話
172/209

「人形の誇り」69

 この世界にも重力に似た力があるのはなんとなく把握していた。しかし、それを目の前でまざまざと見せ付けられるとなると話は別。しかも危険を感じさせるとしたら尚更だ。


「あれヤバイんじゃね?」


 上空を舞うのは銀色の巨体である。あれに飛行機能が無いとすればどうなるのか。

答えは一つ、落下のみ。


「――大丈夫さ。あの程度の高さからなら落ちても壊れないよ」


「そういう問題じゃねえよな? 俺は隠れる!」


「気にする程じゃないと思うんだけど……まあ騒がしくなるしコレ使おうかな」


 自衛の手段など持たない昴は真っ先に隠れる事を選択。先程から遠ざかっているばかりな気がするが、仕方ないのかもしれない。

 だがモルフォは一向に自分の持ち場を離れようとはしなかった。彼の言うように安全策があるのだろう。次の行動に入ろうとしているディアンは視界に入れず、自身の人形のみに集中。

両腕を伸ばす。動きに合わせてドゥーリィーの腕も駆動。


「魔術ですか……確かに増幅回路を積んでいたかとは思いますが私のディアンには――」


 落下を続けるドゥーリィーは恐らく魔術を放ってくるだろうというアレクの予想は即座に打ち砕かれる事になる。


「残念。魔術を使うのなら直接貴方に当てているよ」


 ニヤリ、と口の端を持ち上げた。掌に展開された魔法陣が回転、分裂。指先へと移動を開始。

ルディアンに向けられているのは鋭利な爪だ。


「――コレも実験段階だったんだけど、ちょうど良い!」


 指先に光が走る。それと同時にドゥーリィーの爪に変化が。――次の瞬間。


「ぐっ……!」


 アレクの苦悶の声と共に破片が飛び散る。遅れて響く衝撃と風。ドゥーリィーの着地だ。大きく巻き上がる土煙を裂く幾条もの閃光。夕暮れの陽光を受け、まるで光そのものが伸びているようだった。しかし、良く見ると違う。


「これは……鎖、ですか」


 ルディアンに伸びた光。それは鎖だった。何本かは胴体や脚部、腕に巻きつき、残った数本は頭部や肩を貫いているではないか。射出されたと思しき箇所へと視線を送る。


「ああ。コレも剣闘会用にと思ったんだけど……威力を確かめておきたくてね」


 その先には当然ながらドゥーリィーだ。向けられた指先が割れ、その中から鎖が放たれている。計十本は複雑に絡み合うようにディアンへ。ただ縛られているだけだというのに身動きが取れなくなってしまうではないか。

歯車が最大速度で回転する。この束縛から逃れるには相当の力を必要とする事が分かったからだ。しかし唸り声を上げるのみでどうも全身が動かない。

額を伝う汗。極度の緊張と魔力の使用。アレクは感じていた。自身の衰えという抗いがたい事実を。

それでもまだ諦めるなどとは言えない。ここで退けるはずもないのだと何度も何度も言い聞かせた。自分の為にも、……の為にも。誇りを捨ててでも、必ずやクレイ家に傷を付けるのだと。誓ったのだ。


「お、おおぉぉおお……!」


 ディアンの唸り――否、悲鳴だ。心が無いただの人形だとしても、これは悲鳴だろう。長年共に居たのだから、そのくらいは分かってしまう。情が移ったのだろうか。

故に、代わりと言っては物足りないが、自分の想いを込めるとしよう。


「強度としてはこんな物、か……まあ対人形は考えてなかったからねえ……」


 ディアンの腕が次第に束縛を破壊しようとしている。それを目の当たりにしてもモルフォの様子は変化無し。未だ脅威が無いと言うのだろうか。一つ、溜め息。再び指先に力を込めた。

 ――ああ、彼は余裕なのだと。


「でも、もう一つある。だけどコレは恐らくその人形すらも破壊するよ。良いんだね、アレク」


 最後通告。たった数度の対決であるはずなのに既に終わらせようとしている。


「……ええ、私とて人形遣い……この程度で終わるとは到底思えないので」


「そうか。じゃあ……」


 モルフォが目を見開く。十分に魔力は充填された。

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