「人形の誇り」62
それから運ばれて来たのは目にも鮮やかな食べ物であった。肉の量が多い気がするのだが、昴にしてみるとその辺りはどうでも良かった。
「こ、これは……!」
昴が目を輝かせながら持った皿、もしくは椀に入っていた物。それこそが原因であった。純白、もしくはそれに近い白。艶のある光沢、立ち上る湯気からは甘い香り。
「米か! 米なのか!」
そう。これは見るからに、昴の世界で言うところの主食である穀物。米だ。しかも炊きたてらしい。外国米に似たような細長さではあるが米が存在しているという点は昴の心を刺激する。箸は無いが、この形状はまさに米。それ以外に形容しがたい。
「ほぉ、こいつを知っているとは……なかなかの食通だな。私に勝るとも劣らない」
この反応に、すっかり元気を取り戻したグンも食いついて来るではないか。ふと冷静になって女子三人に目を向けるがこちらは首を傾げて白い物体を眺めている。
「レイセスさんは見た事あります……?」
「残念ながら無いですね」
「アタシも無い」
知識に無い食物を目の前に口に運ぶかどうか必死に吟味している模様。昴はお構いなしに木製スプーンで掬って食べているが。
「ちょっと餅米に近い、かな? でもやっぱこれだわ……そう言えば食堂でも出てなかったもんなあ……貴重なの?」
この世界に来てからというもの主食となっていたのはパンであった。形は様々だったが穀物そのまま、という物は口にしていなかったような気がする。故にここで出会えたのはまさに思し“飯”。甘みを味わいながら咀嚼する。
「貴重も何も国内では我が領地でしか栽培していないからな。出回っていても即座に売り切れだ。今は特別に送ってもらっているが」
「最高かよ……」
「気に入ったのならあとで分けてやろう。調理方法は――」
「最高だな! ああ、大丈夫。米くらい研げるし炊ける、と思うぜ」
「スバル、先程からなんだかおかしい……あ、美味しいです」
漸く口に運んだレイセスもどうやらこの味を気に入ったようで、相変わらず上品にゆっくりと食べていく。それを見て二人も意を決したかのように。こちらも同じような反応だ。
「ところでさ」
「うん?」
大皿に盛られていた肉を多めに回収しながらアイリスが口を開く。
「ここに来た目的ってなんだ?」
「あ……すっかり忘れてたな……とりあえず報告はさっきので大体オッケーだろ? あとは……」
「ふむ。まあ私としてもメルタとルゥが無事だった事、それから買い物を終えた事、それが確認出来れば十分なのだが。犯人については粗方片付くのであろう」
口元を拭きながらそんな事を淡白に言う。グンは最初から襲撃事件やら小火事件にはあまり興味を示していなかったような気がする。今回もあくまで実験の手伝い、のようなもの。ならばそれが終わったのならお役御免という事だろうか。
「そう、だな。近々には親玉が捕まえられるみたいな話もしてたけど……」
「学院長が関わるのだから恐らくはすぐだろう。最速なら明日には解る」
「はぁ~……やっと解放されるのか……」
思えば長かった。成り行きで人形と戦う事になり、犯人を探し。最後の最後まで関わってしまった。何かしらの報酬は戴きたいところである。