「人形の誇り」61
「おぉ、やっと帰って来たか……!」
扉を開けるなり歓迎してくれたのはグンだった。心なしか昨日よりも痩せたような、雰囲気である。どうやらなかなか帰って来ないメルタとルゥを心配していたのだ。
「……申し訳ありません、遅くなりました」
「ごめんねー! 遊んでたの!」
「良い、良い! そんな事は気にするな! 怪我はしていないか? 何もされていないか? とりあえず飯にしようそうしよう。もう、この腹が減ってしまってな……」
心配も事実なようなのだが、それよりも何よりも、食事優先らしい。出掛けている間に何も口にしなかったのだろうか。
「……では、食事の用意を」
「ああ、すまんな。ルゥも手伝ってくるんだぞ? 良いかな?」
「はーい!」
「うむ、良い返事だ。頼むぞ。……さて、客人が余計に増えているのはどういう事なのだろうか。いや男じゃないのなら別に増えても結構なのだがね。ともかく入っていかれるとよろしいでしょう」
二人が暗闇の奥に消えてから、グンは溜め息混じりにそう言って入室を促した。昨日と変わらず乱雑な部屋の中を歩き抜け、客人用と思しきスペースに通される。
「ああ椅子等は適当に。用意が出来ずに申し訳ない。さて、どうだった?」
「何がだ?」
椅子を軋ませながら座るや否や、開口一番に放ったのは何かの質問。しかし昴にしてみればどの話を聞かれているのか判別出来なかった。恐らく全部なのだろうが、聞かれた事を答えよう。
「ルゥの事だよ。あの子は……ふむ、そちらの二人にも話して良いのか? んん? あれ、もしかして……」
椅子を引っ張り出しているエレナとアイリスに視線を向けるとグンは何やら首を傾げているではないか。それから昴を手招き。耳を貸せ、という事か。
「あ、あれは……あの丈の短い給仕に似た格好と思しき彼女は……?」
「アイリスだけど」
「!? じょ、冗談ではないのか!?」
「なんでそんなに驚いてるんだよ……いや俺も驚いたけどさ」
「驚きは確かにしたがそれよりも何よりも、燃やされぬように気をつけねば……! なるべく、なるべく刺激しないようにしてくれたまえよ!」
彼女の格好に驚いたのかと思えばどうやらそうではないらしい。ただ単に警戒している、と言うか恐れているのだろう。確かに彼女の言動は荒っぽい方なのかもしれないが、悪い人間ではないのだ。見境無く燃やしたりなどするはずもないだろう、と昴は思うが。他の生徒からしてみたら不良生徒、という事なのかもしれない。
「ぐぬ……と、とりあえずだ。何があったのかだけは聞いておく。その他事項は後日にしよう」
「んーそんなに怖がらなくても良いと思うけども……ええっと、な? 簡単に言うと爆破事件やらの犯人集団がとっ捕まったのです。そしてなんとそこに俺らが居合わせてしまったのである」
「何故そんな説明口調に?」
「え、……そのような事になっていたのですか?」
「あ、エレナさんにはあとでちゃんと説明しますね」
芝居がかった口調に疑問符を付けるのはレイセスだ。それからエレナへの説明担当をする事に。
「かなり危ない状況だったけどなスバル」
「否定出来ないんだよなぁ……実際アイリス居なかったらどうなってたかね……」
「そうですよね! 本当に助かりました!」
「ふ、む……」
腕を組み何かを考える仕草。遠くでは料理をしていると思われる音が。すると、まるで猛獣の咆哮のような低い唸り声が。
「……すまない、もう限界だ……」
その言葉を最後に机に突っ伏すグン。空腹状態が限界に達してしまったらしい。