「人形の誇り」59
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「それで、なんでまたこの顔ぶれなのか……」
身体に似合わない大きな机の上で小さな頭を抱えているのは学院長。まるでパフォーマンスの如き消火活動の後、犯人一味共々護送された昴たちは事情聴取の為この学院長室に集められたのだ。昴一行を含め、学院長と先程消火活動を行っていた教師と恐らく教師と思しき老齢の偉そうな男、それからケンディッツ。そこそこ大所帯である。
「それはアタシにもわからない。スバルたちがここに何回か呼ばれてたのは知ってるけど」
「なんでそこまで……ところでアイリス。その服はなんだ」
「……仕事」
「また届けも出さず勝手に……あとで出しておくように。んんっ、さて」
アイリスとの会話もそこそこに、わざとらしく咳払いをしてから言葉を続ける。口から出て来るのは当然今回の出来事についてだろう。考えなくても分かっている。
「何があったのか、については報告は聞いている。あれだけの量を未然に防げたのは十分過ぎる成果だ」
「ええ。先程残った調査班から追加報告があり、人形はほぼ全て消し炭になっていたそうです」
腕を組み、してやったり顔をするアイリス。
「うむ。だが、お陰であの倉庫に保管していた商品が多数消失した」
「……まあ弊害ってやつだよね」
「……補填自体には特に問題が無い故、今回は不問にする。加減はしろという事だぞ」
「燃えやすい方が悪いんだ……」
しかし一応名目上のお咎めがあり少々機嫌を損ねたらしい。昴も何点か破壊していたのだがそこについてはバレていないようだ。悪いと思いながらもほっと胸を撫で下ろす。
「そして、君らについて、だが……今回ばかりは運が悪かったというか、良かったのか……? 難しいところだけど、犯人確保に貢献したのは確か。私がやれと言った手前もあるし。褒美くらいは考えておくよ。ついでだしエレナの分もね」
「マジで? じゃあ皆試験免除でお願いします」
「却下だな」
「嘘だろ……」
「そうして欲しければ、親玉を捕まえる事だ」
昴の願いはあっけなく打ち砕かれ、あろう事か再び課題が出てしまうではないか。学院長の顔を垣間見ると、唇の端を吊り上げて笑っている。ここまでの流れを予測していたかのように。
「そこまで任せるんですかい?」
ここで声を挙げたのはケンディッツだ。目を閉じて興味無さそうにしていたのだが、ようやく動き出した。
「なんだ不満か?」
「いやそうでもないんですけどねぇ。ただ一応警備員だの護衛だのっていう職業病みたいなもんで。……こいつら生徒ですぜ」
頭を掻きながら、彼は言う。どことなく恥ずかしそうに。心配、してくれているのだろう。
「そうだな」
「ああ、言っても聞かねえか……」
「学院の長だからな」
だが学院長の前にはそのような心配など無いも同然なのだ。
相変わらず頭の上を通り過ぎる会話に昴たちは付いて行けない。だが、やはりこの事件は解決まで関わらなくてはならないのだ、と感じた瞬間であった。