「人形の誇り」50
「うわ埃っぽいなぁ……大丈夫?本当に入る?」
女性陣を後ろに下げ、扉をゆっくり開けて中を確認すると案の定薄暗く、そこまで酷くないにしろ太陽光によって、舞い上がった埃が元気に踊っているのが見て取れる。人が入った形跡は、分からない。確かに埃は飛んでいるし、いかにも蜘蛛の巣――そう言えばこの世界では見た記憶が無いな、と昴は思う――が張っていそうな雰囲気。しかし奥の方には机やら椅子などといった家具らしき物と瓶らしき物体がある。どれも真新しそうだ。
「倉庫ってか事務所みたいな……んー嫌な感じだなぁ……」
物が溢れかえっている訳でもなく、かと言って閑散としている訳でもない。強いて言うのなら無人ではあるのだが生活感がある。矛盾しているのかもしれないが。
誰も居ない事を改めて視認した昴は更に大きく扉を開けて侵入開始。それに続いて残りの四人も建物内へ。まず最初に口を開いたのは意外や意外、エレナだった。
「商館、みたいですね……」
「言われてみればそうかもしれないですね。あ、あの辺りの計算機は私も見た事があります!」
「なにそれ……?そろばん?玉がいっぱい付いてる。これは天秤だろ俺でも知ってるぞ」
てっきり完全に萎縮してしまっているのかと思いきや案外臆したりせずに部屋の中の物色を開始。妙に整頓されている事から、やはり誰かがまだ使っているのではないかと思われる。ならば早々と退室してしまうのが良いのだろう。下手に触って壊しただの言われてしまうのは誠に心外である。
(そういやあの壷?っていくらくらいしたんだろうなあ……)
昴がこの世界で一番最初に破壊してしまった、レイセスの部屋の壷。あれも間違いなく高級品。その後どうしたのか、とは聞こうともしなかったがあの件のお陰で昴の行動はだいぶ抑制されている。
商館、と言うからなのかどうやら建物内部は商談スペースと商品倉庫に分かれていたらしい。手前には家具や書類など。そして奥にはまだ使っていると思しき大量の箱。どうしてこれが使われているのか、と判断したのかと言うと。
「日付がまだ新しいですよね。これ」
「そうですね……というかあの、今日、なんじゃないですか……?」
「まさかそんなはずはないですよ……私たち怒られるんでしょうか?」
商品らしき箱に書かれていたのはこの世界の数字で日付と名前。送ったのか送るのか、それとも誰かが取りに来るのか。そんな不安に駆られてしまったのか先程の楽しそうな顔はどこへやら。二人は顔を見合わせながらあわあわしているではないか。
「まあ……どうにかなるんじゃねえの?今のうちに出ちまえば見付からないって。という事で出たいんだけど……メルタさん?ルゥちゃん?何か見つけたの?って……!?」
見付かる前に逃げてしまえば大丈夫。それか、隠れる。昴だけなら当然余裕の行動なのだろうが、この人数では少々難しい。故に早め早めの行動をしたかったのだが。ふと、振り返った。するとメルタとルゥが立ち尽くしているではないか。箱の前で。それは別に問題ではない。問題はただ一つ。
「開けちゃったの!?何故!?」
開封されてしまった箱の中身を無言で見詰める二人。この状況は流石に冷静さを保っていられなかった昴。そしてこれは確実に大目玉を喰らってしまうだろうという恐怖に打ちひしがれるお嬢様たち。
「やっぱり、“あった”」
「……そのようですね」
そんな“人間”の動揺を一切気にしない“彼女”(ニンギョウ)ら。その艶やかな瞳に映っているのはまさしく――