「人形の誇り」46
使い走りのような元気の良い少年に呼ばれて戻ってきた昴一行。
するとまずは自分から紹介しておこうと店主の男が自身の分厚い胸板を叩いてから口を開いた。
「呼び止めてすまなかったな。これからご贔屓になるかもしれんと思ってな。俺はマギル・キュゼント。この工房で店主とか師匠だとか呼ばれてる。一応この店では武具全般の依頼設計製造配達、と、まあ武具関連の仕事ならなんでもやってるから話さえ持って来てくれりゃ、対応するぜ」
指折り数えながらこの店の仕事についての紹介もしていくマギルという男。改めて近くで見るとただ体が大きいのは太っているのではなく、その体つきのほとんどが筋肉の塊であるのが分かる。特に半袖故に見えている腕が象徴的。浮き出た血管に程好く焼けた肌、所々に見受けられる傷跡、まさに仕事をしている男の腕だ。なかなか頼りがいがありそうである。
「あとうちの一番のおすすめ商品は刀剣類なんだが……」
昴、レイセス、それからルゥとエレナまで視線を巡らせて何かを思案する仕草。
「どうも君らは武器を扱う類の御仁じゃなさそうだな」
「一目見ただけでわかるんですか?」
言い当てられた事に目を丸くするレイセス。するとその反応が随分と気に入ったらしいマギルは少しばかり汚れた色の歯を見せて笑うと、カウンターに腕をどっしりと乗せてもう一度口を開く。
「おうとも。まず手だ。お嬢ちゃんたちはかなり綺麗な手をしてる。こいつは貴族特有の守られた手だな。ああ、別に変な感情は持ち合わせてないぞ? それでもって筋肉的にもどちらかと言えば少なめだ。武器なんか握らない方が良いって事よ」
「はぁー……」
「すごいですね……」
「んー……?」
三者三様の反応。お嬢様二人はただ手を見ただけでそこまで見抜かれてしまった事に驚きと感心を抱いているようで、ルゥは自分の両手を見詰めながら首を傾げている。どうやらそこまで理解するのは難しいようだ。
「そんでもって坊主な。見た目細い割に筋肉は上々……がちがちの戦闘学科って感じではないけどそれなりだ。筋はありそうな……だけど掌に痕が見えないって事は武器を扱う人間じゃない。どちらかと言えば……そうだな」
くるくると人差し指を回しながら言葉を捜す。昴は次に出て来る言葉にほんの少しの期待を込めながら無言で待つ。自分への評価はどんなものであれ嬉しいものである、と。彼の目からならこの世界でどう動けば自分が活かせるか方向性が定まるかもしれないのだ。
「うん、手甲とか軽鎧とかだな。肉弾戦。使ってる拳だろ、それ」
「っ……ええ、まあ。どちらかと言えば」
「んー古い武術にそんなのがあったけどまだ使ってるのが居るんだなぁ……よおし、せっかくだ。手甲、用意してみないか?」
「お金……」
先程までズラリと並んだ商品を眺めていたし、レイセスに値段を聞いたりしていたがどうも手持ちで出せそうな金額の話が出なかった。好意は非常に有り難いが、どうするべきか。
「型取って見積もりも出すぞ?」
「大丈夫ですスバル! 私がなんとかしますから!」
「え、ほんとに……?」
こんな時に頼れてしまうのがレイセスだ。不甲斐無いようにも感じてしまうが、金銭面に関しては昴一人ではどうしようもない。
「話は決まったか? じゃあ早速始めるか! おーい! 三人くらい手開いてるのいないか! 採寸と型取りの準備だ!」
何やらバタバタしだした彼らを見ながら昴は本当に良かったのか、と悩む。そしてそれをメルタへと。
「時間とか、大丈夫かな?」
「……急ぎではないので。お待ちしますよ」
「そっか。ありがとう」
こうして昴専用特注武器の製作は始まる。