「人形の誇り」45
店の奥から響いてきたのは威勢の良い声だ。客を迎え入れるのには最上の物であるようにも感じられるが、人によっては恐れすら抱いてしまうかもしれない大音声。
まずは周りをぐるっと見渡す。壁に掛けられているのは武具。立て掛けられているのも武具。何処を見ても武具しかない。絵画や美術品の類は一切無い。立ち込める香りも普段学院や寮で感じている花のような甘い香りではなく、どこか無骨で鉄臭くありながらも不思議と嫌とは感じない不思議な居心地の良さ。昴が想像していた町の武具屋とはまるで違う。そう、例えるのなら――
「……武器のデパート……ふっ」
「何か言いました?」
「いやなんでもない」
我ながら上手い表現をした、と本人は思っているらしい。メルタ以外の面子はこういった武具屋が珍しいのか視線も足も止まる事が無く、ずんずんと進んでいってしまう。当然メルタはここに仕事があってきたのでそのような事はせず、カウンターへと向かう。
「おう、いつもありがとうな! これが頼まれてた部品一式と、研磨剤。で、これが鉱石と木材。今日はいつにも増して重いかもしれないよ?」
現れたのは恰幅の良い浅黒の男性だった。隆々とした筋肉、両手には分厚い手袋。その彼が運んで来た袋はカウンターの上に重厚な音で並べられる。恐らく彼の口にした通りの物品が入っているのだろう。
「……いえ、この程度ならまだ私でも大丈夫です」
袋の中身を検めながらメルタは口にする。これだけの量を一人で持って帰ろうと言うのだ。普段からそうしているような口ぶりだが、それでも彼女の細い腕からこれを持ち上げられるだけの腕力は感じられない。
「はぁー……相変わらず嬢ちゃんは力持ちだなぁ。うちの若い衆にも見習って欲しいところだったく……」
「……中身も確認出来ました。いつもありがとうございます、と旦那様はおっしゃっています」
「まあ仕事だしな。贔屓にさせて貰ってるし、依頼さえあればいつでもやるさ。ああもし部品におかしなところがあったら教えてくれ。新入りが調整したやつだしな。俺も一応は確認してるんだが」
強面で話しかけ辛そうな男だが、どうやら彼は相当な話好き。開いた口がなかなか閉じそうにない。しかしメルタはそのような中身の少ない話からも何かを学び取ろうとしているのか首を微かに動かしながら静かに聞いている。
「そう言えば、今日のあの子らは友達かい? 随分遠くまで行っちまったが」
「……友達……ええ、まあ旦那様の、ですが」
「そうかいそうかい。初めて見る顔だし、挨拶させてもらおうかね。見たところいいとこのお嬢様のようだ。うちの店を売り込む良い機会ってもんよ。おーい新入り! 居るか?」
「はい、師匠! なんでしょう!」
メルタに背を向けると再び大声で。呼ばれた新入りの少年は頭を保護していたと思われる布を取っ払いながら小走りに近付いてくる。
「あのお客さんたちをここまで呼んで来い。くれぐれも失礼な事はするなよ」
「あい! 行ってきます!」
「返事だけは良いんだよなぁ……」
そう言う厳しい顔の男。しかしその目は意外にも世話を焼く優しさを映しているようで。