「人形の誇り」36
「どうして?」
単純で純粋な疑問である。どこまでルゥが理解しているのかは定かではないし、どの部分に対しての疑問なのかも――今ここに居ない昴についての話題が出た事、もしくはエレナが話し掛けない事、毎日のように彼について聞かれている事などなど考えれば尽きないので一瞬では判断が難しい――分からない。
「どうしてなんですエレナさん?」
だからレイセスはこう答えるしかないのである。振られた本人も当惑しているようで収拾が付かなくなりそうではあるが、口を開かなければいけない状況がそこにはあった。自分に向けられているのが無垢な瞳であったからだ。
「その、単なる興味なの! レイシアさんが凄く仲良さそうだし、フェノン様とも張り合ってたし、それでどんな人なのかなって……!」
「エレナさん……」
確かにそうである。詳しくレイセスの素性を聞いた事はないのだが、かなりの良家のお嬢様である事には違いない。それも恐らく自分の家柄よりも高い地位に居るのだというのは感じている。だからこそそんな彼女と自分と同等或いは自分よりも仲良くしている彼を見て興味が湧いた、との事らしい。本心では違う部分もあったのかもしれないが。
「たまに言葉遣いが変わりますよね」
「っ……! 仕方ないのです、私はどちらかと言えばこっちの方が楽と言いますか……と言うか聞いてました?」
「はい、聞いてましたよ?」
相変わらずレイセスはおっとりしている、というかどこか天然さがあるというか、素直なだけなのかもしれない。多少噛み合っていないような気もするがレイセスはしっかり理解しているのだ。
「そんな風に思って貰えるだなんてスバルも嬉しいと思います! 確かに男の方とお話するのは慣れないですし私も緊張しますが……それでまずは相手を知ろう、という話だったんですね! 苦手を克服しようと!」
「え、ええ……あれ?」
「それなら私もお手伝いしますね!」
「いや、あのちょっと違う……」
「なんだか楽しそうだねー」
何故か不思議なスイッチが入ってしまったらしいレイセスは突如としてやる気が満タンに。しかしどうもうエレナの思っていたものとは離れていたようではあったが、結果としては良い方向に持ってこれたらしい。その二人のやり取りを見てルゥは肩を揺らして笑う。楽しそう、と口にした彼女が一番楽しそうだ。
「それでは今日はどこからお話しましょうか?」
「そうですね……あ、そう言えば試験の時にお二人で出掛けていたようですが、どちらに?」
「あの時は……本当は私は出るつもりは無かったんですよ? それなのにスバルが勝手に――」
思い出して、ドキドキした事、楽しかった事、驚いた事などを言葉にしていく。まるでその場に居るかのように想像させられるレイセスの語り口にエレナは引き込まれ、ルゥも真剣に耳を傾けている。
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