「人形の誇り」32
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任された、否、託されたとでも言うのが正しいだろうか。傷を付けるな、絶対にだぞ、と散々念を押されながら。昴とレイセスの二人はすっかり暗くなってしまった寮までの道を並んで歩いていた。その間には二人の手にぶら下がるような形のルゥ。さながら親子のようであったが、二人ともそこまで意識はしていなかったようだ。
「とりあえず当面の目標は犯人探しになる訳だけども……」
それもそのはず、昴に至ってはいつものように考え事。今出来る最善の策は何なのか、これからどう動けば良いのか。そればかりなのである。
「うふふー」
「楽しいですか、ルゥちゃん?」
「うん! 外に出るの久し振りだから、楽しい!」
「私もです!」
反対側を満面の笑みで歩くレイセスは、まるで姉のような接し方で無邪気に微笑み掛ける。これだけでも収穫はあった、と考えても良いのかもしれない。根を詰めすぎるのも良くないのだから。
「……っとそろそろ分かれ道になるけど、どうする? 俺としてはレイにお任せしたいところなんだが……」
ちょうど、昴の向かう男子寮とレイセスの女子寮へと向かう二又の道に差し掛かった。今更になって気が付いたが、ルゥをどちらで面倒を見るのか考えて居なかったのだ。懐き度合いから鑑みてもレイセスと一緒に居るのが正解のはず。それに一応少女――外見上は少女なのである――を連れ込むのも精神衛生上、昴の今後の方向性に関しても宜しくない。
「はい! 是非私の方で! ルゥちゃんもいいですか? 一緒に来ます?」
「んー……」
言いながらルゥは昴の手をぱっと離し、レイセスの手を改めて取る。答えは既に出ていたのだろう。昴としても一安心だ。
「レイお姉ちゃんの方についてく!」
「はーい。それでは、スバルとはここで」
「そうだな。頼むわ」
会話をしながらも昴の頭の中は思考回路稼働中。もう今日は休めてしまいたいところであるのは体が訴えているのだが、キリの良い箇所まで片付けておきたいのが昴の性格だ。
「ああそうだ。明日って門の前で良いんだよな? 門ってあっちの?」
ふと思い出した確認事項。明日の予定。グンに聞いたが、明日は一端授業等は無し、となり自由日だそうだ。なんとも柔軟な対応で昴も心底関心したが、今この状況で完全にオフにする事は難しい。そして何よりグンからの依頼があった。
「ええっと……あの、よろしければ朝お迎えに行きましょうか?」
「……うん。そっちのが確実か。お願いしようかな」
「はい! では、今度こそ……」
「あ、じゃあねー!」
「おう、明日な。ルゥちゃん、レイと仲良くするんだぞ?」
「もちろんだよ!」
レイセスはお辞儀をしながら、ルゥは大きく手を振りながら歩き去っていく。一人残される昴。ふと、気を抜いたからか軽い眩暈に襲われる。
「……さすがに疲れたわ。帰ろ」
実を言うとレイセスの強化魔法が解け掛かっていたのをモルフォの説明を受けていた最中に感じていたのだが、それをなかなか切り出せず結局そのまま流したのだ。前回程酷くは無い、と。耐えてやろう、と。
「ともかく明日からも頑張れ俺……」
とぼとぼと、若干頼りない足取りではあったが昴もようやく家路だ。
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