「人形の誇り」27
「話が逸れたな。戻そう。ああ、どれを食べても良いぞ。うちのメルタは家事全般ならばどこの使用人にも負けないからな」
「……恐縮です」
言いながらクッキーにも似た菓子に颯爽と手を伸ばす。
「さて……核についてだが。強度で言えばかなり低い」
「……核なのに?」
「核だからだ。動力源である核は、目に見えない物を保存しておく物。概念みたいな物を封じ込めておく器官でな……どれだけ無骨な見た目をした人形でもこればかりは繊細に作らなければいけないのだ」
続いて茶を口に含んで喉を潤す。その行動が妙に様になっていた。見た目は置いておいて、彼もそれなりの身分を有している人間である事を実感させられる。
「だから核に触れる事さえ出来れば、もう壊したも同然だ」
「そこが問題なんだよなぁ……進まねえ」
「そうだな。人形を相手取って戦うなど正直馬鹿げているような話だからな」
「一撃で壊せる程、柔な物は作ってないし作らない。埒が明かねえから壊すのが一番なんだよ」
「はぁ……やられる前にやるってか? 無茶苦茶だな」
ここで漸く昴も菓子に手を出した。甘い香りと味が口の中に広がるが、考え事をしているせいでほとんど味わう事が出来ない。
「そうだろうとも。何せ相手はクレイ家の人形を改造しているのだろう? よりにもよって超戦闘用だ」
「なんだよそれ……ん? 待て何でその事知ってるんだ……?」
「仕方ないだろう。教師共も似たような理由でここに来ていたのだからな。まったく無粋である。私がそのような人形を作る理由など無いと言うのに」
「考える事は大体一緒って事だな……」
「ま、教師連中もしっかりと働いてるってのがわかったか」
昴たちが人形遣いを追ってみるという決断をした傍ら、同じように教師陣も動いていたのだ。だからこそグンは会ってすぐに異変を察知したのだろうし、長い話をするつもりで準備もさせた。先の見れる賢い人間なのだ。
「なあ、聞くのはアレかも知れないけど、戦闘用を作らないって事はどんなのを作ってるんだ? ああ、いや単なる興味だしセルディも居るし言い辛いのならこれは引っ込めておくけど」
「あ、それは私も聞いてみたいです」
人形はもう完全破壊を目標にするしかないのか、とそこで思考は停止する。だから違う方向に意識を向けるのだ。こうする事で何かが見えてくるかもしれない。
「ふむ……まあ聞かれて答えないのも後味が悪いな。簡単だよ。私が目指すのはただ一つ、人間と生活が出来る人形だ」
「今でも使い方としては存在するだろ。それとは違うのか」
ほぼ黙々と菓子を口に運んでいたセルディが動き出した。やはり人形遣いの家柄の人間として興味を持ったのだろうか。
「ああ、そうだ。私はあのような無機質な使い捨てなど創りたくも無い。創るのなら、愛着を持てるモノを創りたい。そして創ったよ、私は。まだ完成形とは言い難いが」
「……?」
「愛着のある人形、という事でしょうか……?」
「その通り。戦闘行為を一切しない、おおよそ人間に近い人形をね」
その瞳に湛えられているのは優しい光。執着して、妄執して得た物ではなく満足をして得た光だ。
「改めて紹介しよう――」