「パラレルワールド!?」13
微かな光を感じ昴が目を開くと、そこは最初に居た部屋――つまり与えられた客室だった。扉の前で棒立ち状態。
「い、一体何が……?」
姿を見ることすら出来なかったが、きっとあの人物が何かをしたと考えるのが妥当なのだろう。しかし、未だにそう言った奇想天外・摩訶不思議なファンタジーを容易に受け入れられる昴ではないため、どんな仕組みがあるんだろうと必死に頭を悩ませる。
例えば、先程の部屋には侵入者撃退用の落とし穴が仕掛けられていて、昴はまんまとそれに引っ掛かった……とか。この仮説が通じない事は百も承知である。
どうせ考えても分かるはずがない、と諦め設置されている白い椅子へ。頬杖を突きながらぼやく。
「さて……これからどうしたもんか。多分、次に動き回ったりしたら何らかの騒動を起こしちまうだろうし……大人しく待とうかな」
そんな時、きゅぅぅと間の抜けた音が静まり返った部屋に響いた。
「あぁーそういや朝飯も食ってねぇんだっけか……うぁぁ思い付いた途端に空腹感が……」
動いたせいもあるのだろうが、昴の腹の虫が空腹に堪えかねて救難信号を送ってくる。だが、ここは昴の家ではないのだ。冷蔵庫を漁ったり、適当にトーストを焼いてコーヒーを淹れて、などといった常識が通用する場所ではない。
「ホントに、何もかも……違いすぎんだよな……」
口元で消え入るように呟き、テーブルへ突っ伏す。硬い感触は現実を余計に感じさせてくるようだった。
「進むって決めたのに何を迷ってんだかな、俺は……馬鹿馬鹿しいぜ」
吐き捨てるように。そんな独り言を聞いてか知らずか、扉が仰々しく一定のリズムで三回叩かれるのが聞こえた。
「スバル……? 起きてますか……?」
「ん、レイか。もちろん起きてるぜー」
応答し、それからゆったりとした所作で部屋に入って来たのはレイセスだ。
彼女の服装は――当たり前であるが――昨日とは違っていた。豪奢なドレスでは無く、何かどこかで見た事のあるような……、
「今日からは学校ですからね! スバルにこれを持って来たんです!」
「っと……それは? え、学校……? 行くの? 俺が?」
子供が自分で描いた絵を自慢するように広げられたのは、白を貴重とした衣服だ。上着の胸の辺りにはどうやら何かの紋章が刺繍されているのだろう。良く見ればレイセスの胸にもしっかりと同じ刺繍が。それを確認して、察しがついた。
「なるほど、制服って事……」
似たような衣服、同じ紋章、そして学校と来ればこの答えが必然と導かれるだろう。
「そうです! スバルも早くこれに着替えて朝食を取りにいきましょう? ……な、何でしたら私が着替えを手伝っても……!」
「い、いや気遣いは有り難いが俺は一人で大丈夫! だからそれを渡してくれるか? 説明も着替えてから聞かせてもらうからな?」
残念そうにガックリとうなだれたレイセスから優しく衣服を受け取ると、背中を押すようにして退室させる。健全な一男児として興味が無かった訳ではないが、こうするべきだったと思う。後悔はしていない。
「大丈夫……俺の思うようなことにはならないはずだ……まずはさっさと着替えて飯にしたいぜ。ここの飯も相当に美味いからなあ」
何を考え、心配しているのか、それは昴本人にしか分からなかった。