「人形の誇り」17
“敵”は半分くらい――だいぶ低く見積もっても三割程度は知れただろうか。ここで考えられる新たな疑問は、この犯行が単独犯なのか複数犯なのかという事だ。
「んー……この学院に居る人形遣いって奴らの総数を割り出したらどうなるんだ?」
昴とレイセスの二人は一度自分達の教室へと戻って来ていた。あの後ほとんどの生徒は自室へ戻るなり悠長に買出しに出掛けたり、とそれなりに自由な行動を取っているようだ。昴としては買出しの為に街に出られるという新たな情報に心が躍ったのだが、今はまだやるべき事がある。仕方がない。
「だとしても犯人の数はわからねえよな? ……うん、わからねえ」
自分たち以外に誰も居ない静かな教室に女子と二人きりというのは高校生男子としてはなかなかなシチュエーションなのではあるのだが、そちらはあまり気にしていない模様――気にしたら完全に意識してしまうので自分からシャットアウトしているのだ――。
「そもそも絶対的な人数は少ないと思いますけど……」
「だよなぁ。自分で作り上げるって……プラモかって。そんな簡単じゃないだろうけども」
「スバルはたまに難しい言葉を使いますね……あと、その一つ良いですか?」
「うん。何でもどうぞ」
「では、その……これは一体何を書いて?」
レイセスが指差したのは昴の手元。適当に見つけた紙に書かれているのは、記号だろうか。
「これ? 人だよ犯人。で、これが人形な」
「絵、ですか……?」
「うん。棒人間。こうした方が分り易いじゃん?」
どうやらイラストを描いていたらしい。よくよく見てみると丸の中に『犯人』や『人形』などと書かれている。残念ながらレイセスには伝わらないのだが。
「俺の絵心についてはどうでも良いから忘れてくれ。……とりあえず、だ。何を知れば良いのか、次に何をするべきか」
自覚はしているみたいだが触れられるのは嫌らしい。慣れた手つきでペンを回す。左手に顎を置き眉間に皺を寄せる。
「人については知ったので、次は人形について知る……というのはどうでしょうか」
「なるほどそっちか。確かに知らんからな。現状、俺が知ってるのはそれなりに遠隔操作出来ちゃうってのと結構硬くて重いってのだけだな。授業でやらない感じ?」
「ええ、どうしても使役だけなら簡単ですし……なので私たちが基本的に知っているのは中身に魔術的な心臓を設置して動力炉にしているという事くらいです」
「心臓、ねえ……」
確かに破壊された人形の中身はまるで人間のようであったのを記憶している。血が流れている訳ではないのだろうが、それでも妙な不気味さを感じた。
「じゃあその線で動くとしてどうすっかね。聞く相手が限られてきそうだ」
頭に過ぎるのは当然生徒会長である。セルディでも良いのかもしれないのだが、彼は彼で動いてもらっているので更に仕事を増やすと追加報酬を要求されそうだ。
「モルフォさん、ですよね……」
「そっかレイも苦手なんだな」
「はい、その彼は城での晩餐会などにも呼ばれるような家の方でして……私の事を知っているのでどこか威圧的と言いますか……」
「……スケールがでかくてわからんけど。とにかく俺が一人で特攻してくるよ」
本当は昴も行きたくはないが、嫌だからと逃げているのも癪である。ならば立ち向かうべきだ。
「いえ! 私も行きます! 何というか、スバルばっかり働いてる気がして」
「そう、か? そうだな負担があったのは事実っぽい。ちょっと気が楽になったよありがとな」
そう言って頭を優しく撫でてやるととても嬉しそうなレイセス。さりげなく喜ばせるのが上手い昴であった。