「人形の誇り」16
「定義、ですか」
人形遣いという職業――昴の世界では恐らくその言葉で顕わせるだろうか――についての定義。ただ人形を買って使役するだけではない、というのはつい先程の説明で理解出来た。それ以外の条件とは。ほかに何があるというのか。
「簡単な事なの。口で言うだけならね」
「ぬぅ……」
思考する。“アイギア”というものは基本的には一人一体だとも聞いたので、それでもないだろう。買う、使うという者が存在するのなら販売する者が存在するし、販売するのには――
「製造者が居る……?」
「その通り。自分の専用人形を作って“アイギア”契約をして初めて人形遣い、って名乗れるらしいの」
――設計や製造を行う人間も居る訳である。更に突き詰めていくとどのような用途で、どのような人形を使っているかなども考えとしては浮かぶのだが、開口一発目で正解を引き出せたので良しとしよう。しかし同時に疑問も湧く。
「うーん……じゃあ製造してる、というか量産してるのは人形遣いではないのですかね」
「そうね……そうなると人形師とか人形製造者っていう感じになると思うの。詳しくは分からないけど」
「なるほど。作るだけを専門にしてる人たちも居るって事か……」
それならば人形遣いを絞り込むのは容易だろう。ただ使役、購入するのなら誰にでも出来るという点がネックだ。
(そもそも一人だって決まった訳じゃねえし……動機も……あれ?謎しか残ってない?)
「スバル? 大丈夫ですか、なんだか難しい顔をしてますけど……」
腕を組み、眉を寄せていたらしくレイセスに心配されてしまう。
「うん大丈夫。理解はした、と思う。根本的な部分は粗方把握したよ。したんだけども……なんつーかなぁ……知っても解決のヒントが見えなくてな? 名探偵じゃないからこの程度じゃきゅぴーんって言わないのよな」
「?」
アンリの説明を聞いて、人形遣いについては朧気に形を掴めた。しかしどうやってもこの情報から犯人に繋がる糸口が見付からない。
「何か、何かあればなぁ……」
「手助け出来れば良いんだけど、私達教員も情報探しで手一杯なの……ごめんね」
「ですよねー。たった数人の人海戦術なんてのも心許無いし……良くないぞこれ。この流れは良くない」
「難しいですね……」
この場に居る全員がマイナス思考に動いてしまった。それは昴も薄々感じているのだが、この空気すらも打破出来るような画期的なアイデアなど唐突に浮かぶはずもなく。
「――とりあえず知りたい事は聞けたのでここで退散しようかと」
ならば切り替えていかなければなるまい。そう思い昴は椅子から腰を離す。続いてレイセスもだ。
「そっか。じゃあ先生から言える事はね、無茶はしないようにって事だけ。それさえ守ってくれれば――」
アンリが指差すのは自身の耳である。
「これについて教えてあげるね」
「え、マジっすか?」
「守ったら、ね」
「うっす。頑張るっす! 失礼しました!」
「スバル、どうして元気になるんですか……?」
無茶はしない。改めて考えると無茶な注文ではあったが、承諾しよう。謎は解決するのだ。
「そう、解決してやるさ。全部な」
忘れてはいけない事、その他諸々含めてである。