「人形の誇り」15
「それで、何を聞きたいの?」
椅子に腰掛け首を傾げるアンリ。大きめの机の上には数冊の分厚い本と積み重ねられた紙、そして色とりどりの宝石のような物。何かの作業をしていたのだろうか。
「あぁ……えっとですね。人形の……うん、人形遣いっていう奴についての知識が欲しいんです」
昴はその乱雑な机から特に得られる情報は無さそうだと判断して即座に本題へ――昴の世界では試験の問題などを確認出来るチャンスでもあったがそれはそれである――。
「それはどうして?」
「単なる興味っす」
「なるほど……スバル君は随分頭が働く子なのね……あと演技が上手い、かな?」
「ポーカーフェイスってやつです。別にバレてもいいんすけどねぇ……学院長から秘密裏にって言われてるんで隠そうと思っただけです。率直に言うとさっきの事件の犯人の……」
隠し通せない相手だと察したので昴は諦めて目的を口にする。おっとりしているように見えて実はなかなか手強い相手なのかもしれない。
「敵の事を知りたいんです。情報収集は戦闘の基本なんですよね? 敵を知り、己を知ればなんとかって言いますしね。でも自分の事はよくわからんので置いときましょう」
「スバル、なんだか難しい言葉を知ってるんですね!」
「そう? 俺の――住んでたとこじゃ割と聞いた事くらいはあるって人は多いんじゃないかな。……という事です。お願いします」
たとえ褒められようとも頭の中は常に全力で稼働中。下手に口走る事もないだろう。余程浮かれでもしない限りは。そして戦闘科目の授業で培った情報収集を今まさに実行しているのだ。同時進行で交渉術も。小さな事ではあるが自分のスキルも上がったのではないか、と自慢げである。
「そういう事ね。じゃあアンリ先生の特別授業でいこうかな。いい?」
「私、聞きたいです!」
「うっす。お願いしまーす」
「はい、準備するからちょっと待っててね」
そう言って立ち上がると部屋の奥へ。がらがらと引っ張ってきたのは古ぼけた黒板。昴の世界にもあった移動式の黒板だ。
「それじゃあ始めるね。……まず! 人形遣いと“アイギア”の違いはわかるよね?」
「……」
「はい。前者は主に人形を作る際に決められた動きを込めておけばほとんど自動なんですよね。細かいを動きを制御するために使役の魔術で動かしていると聞いてます」
「へぇ……」
ここは完全に聞き手になった方が良さそうな昴は、レイセスの説明を噛み砕こうと必死である。噛み砕いてどうにか出来る問題なら良いのだが。
「その通りです。そして“アイギア”は基本的に一人に一体。契約を一度行えばその契約は破棄する事が不可能。だけど人形は魔力次第で一度に何体でも動かせたりするの」
(そんでもって金さえあれば複数体買い込める訳か……単独犯って訳でもないのかもな)
一体どの程度掛かるかは恐らく相場や状態などによって変わるだろう。型落ち品などもあるだろうし、廃棄を買い取る事も。まるで家電製品のようであるがこの世界ではその程度の認識なのだろう。物は物、という事か。
「あれ……質問なんすけど、その場合……買うだけで良いなら、もしくはほんの少し魔力があるなら人形遣いってのは誰でもなれるって事ですか?」
そうなると容疑者だなんてこの学院に居る自分以外全員に広がってしまう。そんな馬鹿な話があってたまるか、と思いながらの質問だ。
それに対してアンリは笑顔で首を振る。
「そこが重要なのよ。だから次は人形遣いの定義についてね」