「人形の誇り」13
「教師連中がオレに目を付けてるって事はどうせ前の続きなんだろうな。なんでお前がまた突っ込まれてるのかは知らねえけど」
こんな身形をしてはいるがさすがは名門の息子である。食べ方に品があるように思えた。
三人分の昼食を奢った昴であったが、痛手だと感じないのは自分の金ではないからだろうか。それはそれで罪悪感を覚えてしまうのだが。
(そういやバイト先にも連絡してねえんだよなぁ……)
気が付いたらここに居たので関係者には一切の連絡が出来ていない。方々に迷惑を掛けているのもやはり心が痛む。
「おい聞いてんのか?」
「あーすまん考え事してた。とにかくだ。飯奢ったんだから協力してもらうぞ。三人共な」
「仕方ないなー」
「飯の恩は大きいからな……」
財布、と言うか巾着袋のような革製の袋の口を紐できつく結びポケットへ。多少軽くなったがまだそれなりには入っているようだ。頼めば補充して貰えるのだろうが、それはなるべく避けたいので金を稼ぐ方法も考えなくては。
奢られた側の三人は渋々と言った感じではあるが協力を得る事が出来た。ここからどう使っていくかが腕の見せ所である。
「まず、だ。人形遣いとやらは誰でもなれるものなの?」
これは知識として必要だと思った質問。授業では大きい枠組みで“使役”として扱われていると聞いた覚えがあった。
「……誰でもじゃねえな。人形自体は買う事も出来る。だけど買っただけの人形はあくまでも動ける範囲と……そう、やれる事は決められてんだ」
「へぇーそうなの?」
「テト……お前でもさすがにこれくらいは知ってると思ったんだが? 本当に技能だけで四科に居るんじゃねえの? 入ったのもマグレか?」
「まあーそういう事もあるさね。でも売ってるのは知ってるよ?」
この二人の会話を聞く限りテトは頭脳を使うのには向いていないようだ。今後彼らを使うとして、役割分担もそこを考慮しなくてはならない。
「なるほど……と言う事は自由に動かすにはそれなりに技量が必要だって事か」
「そうなる」
「それで俺達に人形遣いを探せ、と?」
対して寡黙そうなカロルはなかなか頭がキレる。
「そこまでは考えてなかった。せめて知ってる範疇で教えて貰おうと思ったんだ。後は俺がやるつもりだったし」
これはほぼ本音だ。情報を得て、上手くいきそうならば彼らをも取り込んでしまおうという作戦だった。
「やってやらん事もない」
「おいカロル面倒じゃねえかよ……」
「いや見たところ金はそれなりにありそうだ。どっかの田舎から来たとは聞いたが……それが真実かどうか」
「……要求は?」
口元を弧を描くように鋭利に歪め、眼光も矢の如く昴の目を射抜く。
「そうだな勿論飯だ」
「言うと思ったよ」
「え! また飯くれんの! 良い奴じゃん!」
「お前ら勝手に話を……!」
意外にもセルディを除く二人は昴に対しての印象をこの短時間でそれなりに改めたようだった。
昴としても仲間が増えるのは歓迎すべき事。ただレイセスに近付けるの避けようと思っているらしい。
「白は黒くなりやすいからなぁ……」
腕を組みながら呟く。悪い虫とは言いたくはないが、接触させると再び牢屋行きになるかもしれないという不安があるからだ。
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