「人形の誇り」12
食べながら、時折話しながら頭も働かせる。栄養を補給しているのだが考える事が複雑過ぎてすぐに消費されているようだった。情報がほとんど無いのに犯人を探せ、などと言われても難しい。やはりまずは情報が必要だ。となると、それを持っている人物に接触する必要があるだろう。
「情報、情報な……生徒の情報を持っているとするのなら、教師……だけど奴らがタダで教えてくれるとは限らん」
聞いて答えをそのまま教えてくれないだろうし、そもそも内密に動くようにとも言われている。他の生徒の情報などを聞こうものなら不信感を煽ってしまうかもしれない。
「んー……」
食べ終えた食器を返却しながら更に悩む。周りの喧騒など耳に入って来ないまでに集中している。最適な方法は何か、なるべく危険がない方法は、そして楽は出来ないかと。
「そうだ。もしかしたら使えるか……?」
ふと妙案を思い付き、辺りを見渡す。お目当ての人物を見付けるのは容易かった。偶然彼らもこの食堂に来ていたようで、本日のメニューから選択しているところだったのだ。
「よっ。なんだか泥だらけだな」
「んだよ……お前も疑いに来たのか?」
昴が話し掛けたのはセルディだった。友人二人を連れてのいつもの食事だろうか。そして昴が指摘したように彼らは制服が汚れだらけである。一体何があったのだろうか。
「そう身構えんなって。俺とお前の仲だろ?」
「気持ち悪い事言うんじゃねえよ」
「でさ、何で汚れてんの?」
初対面の印象はお互い最悪だったはずだが、いつの間にかセルディも昴もほとんど棘が抜けていてちょっとした知り合いのような雰囲気を醸し出している。その事に虚を突かれるカロルとテト。
「な、なあいつからだ……?」
「知らん……こっちが聞きたいくらいだ」
ひそひそと二人についての会話をしているようだ。
「うちは実地試験だからな。紙の試験は後からだ」
「ふーん……詳しい内容は聞かないわ。まあいいや。ところでさ、一つ聞きたい事があるんだけど」
内容を聞かなかったのは頭の中がこんがらがってしまいそうだったからである。本題はここから。
「答えなきゃいけない義理はねえぞ」
「まあそう言うと思ってな」
昴が指差したのはメニュー表。一体どういうつもりなのだろうか。
「教えてくれるのなら、好きなのを奢ってやる」
「ほぉ……どれでもか」
「もちろんだとも。しかも――」
指を開きながら顔の近くへ。それが意味するのは数字。
「三人分だ」
協力者は多い方が良い。そしてこの世界に居る間の仲間も。当然これだけで完全に懐柔出来るとは思っていない。あくまでも今を乗り切る一つの手段だ。
「なかなかわかってんじゃねえか」
「慣れてるんだこういうのは」
不適に笑む二人に首を傾げる友人。更にその奥でレイセスが輪に入れずに困っていた。