「人形の誇り」11
どうやら完全に襲撃騒動は鎮圧されているようだった。教室から解放された生徒たちが試験中断の報せを受けて歓喜の声を上げながら食堂へと集まっている。
昴もすっかり慣れた様子で昼食を購入していた。未だ銅貨や金貨などといった物の細かい価値までは把握出来ていないのだが、とりあえずこの食堂で必要なのはこれとこれ、時折これもといったような形で覚えたのだ。間違った際は目の悪い振りをして眉を寄せ、ポケットから違う種類を取り出して聞く事で難を逃れていた。
「米が食べたいなぁ……存在しないっぽいんだけど……」
受け取ったプレートを手に昴は席に着く。目の前にはとても美味しそうな丸いパン――穀物で作っているそうなので昴の中ではパンという扱いだ――やスープにサラダと十分過ぎるであろう食事が並べられている中、愚痴を漏らす。昴の言うようにこの世界では米、または米に似た主食は存在していないようだった。食堂で提供されていないだけなのかもしれないが。
「美味いんだけどな。ずっと食えないのはなかなか堪えるもんだぜ」
「どうかしたんですか?」
「ああ、いやなんでもないよ。いただきます」
独り言が多かったのかレイセスにも心配されてしまったようだ。パンを適当に齧りながら周囲に目を配らせ、更に思考も回転させる。口の中にはふんわりとした甘い香りと香ばしさが広がるが、考え事をしているせいかあまり入ってこない。
「んー……これだけの数から本当に生徒だって目星が付けられるのか? ぜってぇ無理だわ」
考え事というのは勿論犯人探しである。昴とレイセスは主に生徒を中心に探せとの命を受けたのだが、この中から犯人を見つけろというのはなかなか酷な話であるし、ましてや自分の学院の生徒の犯行を起こすなどと考えるだろうか。
「ますますわからんなこれ」
考えれば考える程深みに嵌っていくような感覚だ。一人一人聞いて回るだなんてのは恐ろしい時間が掛かるだろうし、決めて掛かると襲われるに違いない。昴はそう考えている。
「あのー……スバル?」
「なに?」
「たぶん関係の無い事なんですけど……」
食事の手を止め申し訳無さそうに質問を投げるレイセス。
「体の調子はいかかですか? そろそろ強化魔法も切れている頃かと思って……」
言われるまで忘れていたのか、ワンテンポ遅れての反応。パンくずを払い、腕を叩いたりしての確認。これで何が分かるのかは本人しか知らないが。
「うん、別に異常は無い、かな。前回みたいに怠いとかも無いよ」
「そうですか! 良かったです! 前回よりも弱めに掛けてみたんですがスバルにはこれくらいが丁度いいみたいですね。覚えておきます!」
「俺はそういうのは全くわからないからなぁ……レイに任せるよ」
「はい!」
昴の役に立てたのが嬉しかったようで、にこにこしながら食事を再開。これではもし異常があったとしても言えないかもしれない。勿論、今回は本当に体への異常は見られないのだが。彼女を傷付けない方法も頭に入れておかなければならないのかもしれない。