「人形の誇り」08
「セィッ――!」
向かって来た人形に対して鋭く息を吐きながら拳を突き立てるケンディッツ。その拳は肩を射止め、深くめり込んだかと思えば一瞬にして腕が瓦解。剣も同時に地面へと落下を開始。
自身の片腕が無くなったにも関わらず全く動じないのはさすがと言うべきか。残った左腕を伸ばす。服の袖口から覗く鈍色。小さなナイフか何かだろうか。
顔面――主に目を狙っていると思しき攻撃にも反応は薄く、首を傾けるだけで回避完了。髪が数本飛んだくらいか。すると現れるがら空きになった人形の体。絶好のチャンスである。勿論ケンディッツは見逃さない。
そしてここからが凄かった。貫通させ、嵌ってしまったのではと思われた右拳を瞬時に引き抜き、再び撃つ。まずは頬。速度と破壊力を持った岩のような拳で仮面を砕く。続いて左腕も攻撃に参加。それを空きっぱなしの脇腹に突き刺し、続け様に右拳で胸を、更に左で肩を。永遠に続けられてしまいそうな怒涛のラッシュ。しかもそれを速度を落とす事なくやっているのだ。彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいるだけで、顔は涼しげ。撃ち込む度に前へ前へと押しこんで行き、ついに壁際まで来た。
「これで、止まれよ……!」
大きく溜め込む動作。もうほとんど人形は動けるような状態ではないだろう。上半身は目も当てられない程にクレーターだらけだ。それでも完全に停止させなければならないのだろう。最後の一撃だ。盛り上がった腕と肩の筋肉から放たれる全力のストレート。恐らくただの人間がこの一撃を喰らったらひとたまりもないだろう。そう思わせる程に凄まじい。顔の中央に触れると同時だろうか――目で追えなかっただけかもしれないが――、人形の頭部が、破砕。衝撃波のような残響。しかし、校舎の外壁には一切の傷が無い。破壊力だけではなく、ケンディッツ自身の技量も人間離れしているのだろう。
「っし……こんなもんか……クソッ片付けないといけないんだよなこれ……」
触れれば崩れてしまいそうな程ボロボロになってしまった人形。それを見ながら愚痴を零す。
「ケンさん!」
事の終了を見計らい昴とレイセスがケンディッツの元へと駆け寄っていく。
「なんだまだ居たのか……まあ良いか……どうせ持ってかないといけないしな。おいモロボシそれそのまま担いで付いて来い。二人ともな」
額にかいた汗を拭い、付いて来るように促す。勿論これを断れる訳がない。しかし昴が今興味があるのは、この事態でも背負っている人形でもなかった。
「なあなあケンさん。さっきの戦闘術ってさあ」
「……お前、もしかして、“ガリア”知ってるのか?」
「う、うん? いや見た事あるなと思っただけなんだけど」
「そう言えばスバルの戦闘術に似てました!」
そう、昴が興味を持ったのは彼の技術。まるで昴の世界にあった格闘技のようだった。
「他に似たようなのは知らんが……とにかく今はその人形を運ぶのが先だ。あとお前らの移送な」
現実は非情だ。