「人形の誇り」07
未だ濛々と立ち上る黒煙を避け、二人が目指すは教員棟。――となるはずだった。
視界の端に閃く銀色。黒煙を裂き、まず姿を現したのは一振りの剣だった。細身でありながら刀身は長く、両の刃は研ぎ澄まされているようで周囲の光を反射している。その奥には人影。不気味に直立していた。
「まさか、こいつも――!」
先に気が付いたのは昴だ。背負っていた故障――破壊してしまったのは自分であるし、もしかしたら動くかもしれないという意味での故障――した人形もあったせいか、満足に動く事が出来ない。感覚的には襲撃者の正体も掴めているし、得物の速度や距離も授業のお陰でなんとなく把握出来ている。しかし、動作が間に合わない。下ろして、向き直って、それから――
「スバルっ……これで……!」
そんな考えのまとまらない昴の目の前、立ち塞がるように立ったのはレイセスだ。一体何をするつもりなのか。腕を大きく広げ言葉を紡ぐ。
「――“盾を”」
瞬時に地面に広がる淡い輝き。それは瞬く間に収縮、膨張。まるで地中から壁が生えてきたようだった。その後、高い金属音。言わずもがな、鋭い切れ味であろう刃を受け止めたのだ。
剣が止められた事で姿を現したのは、昴の背に倒れている人形と全く同じ背格好をしたモノ。つまり、これも人形のはずだ。先程と違うのはこのように剣を持っているという事くらい。他に大きく変わっていそうなところは無さそうだ。あくまでも見た感じ、ではあるが。
「レイ……助かった!」
「このくらいなら、私でも大丈夫です! 攻撃魔法は苦手ですので……この間に、お願いします!」
「あ、ああ……!」
一心不乱に、同じ箇所に繰り返すように剣を振り回す人形。しかしその刃は一切通る事はない。
その様に、レイセスが普段見せないような力強さに一瞬心を奪われそうになった昴であったが、背負っていた人形を意識せずに優しく寝かせ、立ち上がる。頭を振り、まずやらなければならない事を――
「え……?」
ふと、気の抜けた言葉が漏れる。目の前で攻撃を仕掛けていたはずの人形が、掻き消えた。否、正確には弾き飛ばされた、だろうか。側面からとてつもない力で飛ばされたようだ。視界から消える直前、人形の体が弓形になったのが見えた。力を加えたであろう方向へと視線を送ると。
「お前ら……なんで外に居るんだ? ったくめんどくせぇ事になるぞこりゃあ……主に俺が……」
ボサボサの髪を掻き毟りながら言う筋骨隆々の男。ケンディッツだ。普段と変わらず縒れた衣服を身に纏っているが、少しだけ違う点があった。その拳から肘に掛けて装着された銅色の手甲。
「さっさと戻ってろ。見なかった事にしておく」
「いや、だけど、ケンさんこれ……」
「あ? あー……わかったそれも俺が持ってく。だから――」
ケンディッツの言葉が止まる。視線の先、吹き飛ばしたはずの人形が向かってきたからだ。
「チッ……俺の仕事を……増やすな!」