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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第2話
103/209

「異世界での生活」45

 ――時間の経過と共に頭が焼かれるような感覚を覚える。持っている知識を総動員した結果だ。捨てるとは言ったが全部を諦める訳ではない。だからこそ、こうして半分は切ったであろう試験の時間をフル活用して問題との死闘を繰り広げているのだ。

 今までここまでの苦痛を伴う闘いがあっただろうか。いや、きっと無かった。それなりに成績も良かった昴はこのように試験問題に苦戦する事は無く、ある程度の成績は維持していたし、すると言えばそれこそ具合の悪い時くらいだ。


(……なんだこれ想像してたよりも十倍はむずいぞ)


 異界の言葉には慣れてきたとは言えまだ知識に産毛が生えた程度。未だに見た事も聞いた事もない文字が多々あった。文脈から察する事はおおよそ可能だが、そもそも問題が解けない。

手が止まる。飛ばし飛ばしやっていたが、それももう出来ないという事が判明した。頭を抱え、赤熱しているであろう脳内を冷やすように軽く振る。目を閉じ落ち着きを取り戻そうとゆっくり息を吸い込む。


(おいおいマジで煙みたいな臭いするじゃねえか……)


 ついにおかしくなってしまったのか、と再び目を開いた。

 ――その時だ。窓の外には黒煙が立ち上り、遠くの校舎には小さいが火柱が。急な現象に数秒固まる昴。何が起きているのか理解出来ていないようだ。瞬きを数回繰り返し、もう一度外へ視線を送る。漸く事態を大まかに把握。試験の最中であるという意識が先行し、まずは視線だけをさっと投げてみたが、皆が皆用紙に向かっていて外の異変には誰一人気付いていないようだ――ついでに気が付いたのは空席が一つ――。真っ先に気付くべきの教師は。


(寝てる……!)


 教壇に椅子を置き、腕を組んで眠っているではないか。カンニングなどを探したりはしないのだろう。恐らくこのエリートが集まる学科でそのような不正が行われるとは考えてもいないのだ。安心して睡眠という職務を全うしているのだろう。


(気付けよ……! 誰でも良いから!)


 苛立ちを募らせる昴。わざとらしく咳払いもしてみたのだが、これも効果無し。一体どれだけ集中しているのか。


(もう立ち上がっちまうか? じゃねえとあれ燃え広がるだろうし……いや待てよ? 俺が気付けたって事は他のクラスでも誰かしら気付いてるんじゃ?)


 そんな考えも過ぎったのだが、ならば何故騒ぎが無いのだ。まさかこれもこの世界では日常茶飯事だとでも言うのか。

 時間だけが過ぎていく。動くべきか否か。最善の策は何か。皆に伝える方法は。昴の頭の中には火事と思しき事象でいっぱいに。試験どころではない。


「あ、の――」


 ここはもう自分が動くしかない、そう判断した矢先だ。轟音と共に教室全体が揺れに包まれる。それが、数回。


「何だ!?」


「地震、じゃない……爆発? 魔法学か? 試験やってたっけ」


「おいあれ見ろよ! 燃えてるぞ!」


 そこで漸く事態を把握出来たらしい生徒たち。


「お、落ち着け! すぐに連絡が入るはずだ!」


 眠っていた教師も飛び起きて的確な指示を飛ばす。

 昴はそれらの様子を見て安堵。している場合ではないのだが。すると暫くして金属音のような耳鳴り。


[全校生徒、及び教師陣に告ぐ――先程の爆発は――]


「なんだ、これ……」


「大丈夫ですか……?」


 頭の中に直接声が響くというのはまさにこの事なのだろう。奇妙な感覚に顔を顰めているとレイセスが心配そうに声を掛けてくる。笑って大丈夫だ、という意思表示。


[特別な物ではなく事故である。対処の為教師陣は教員棟への集合、生徒には教室から出ないよう外から防護魔術を施す事。試験は騒動収拾まで一時中断にする。繰り返す――]


「爆発が事故、ねえ……」


「スバル? なんだか悪い顔をしてます……」


 どうやら面白い事を見付けてしまったらしい昴。試験も中断になるらしいので良い気分転換になるはず。


「よしレイ。抜け出すぜ俺は」


「サボリは良くないってスバル自分で……!」


「俺に適用しないんだぜそれ」


 まるで悪戯するような笑顔で。訪れてしまった非日常を楽しむかのように。異世界での生活、というものを彼なりに受け入れ適応しているのだ。思い立ったらなるべく即行動。これが昴のモットーだ。



*****





KotoSeka

第2話「異世界での生活」終

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