二話
これは、
戦争になる前のお話、
「おーい、とーちゃんかえったでー」
「おかえりなさい、ご飯できてますよ」
「子供達は?」
「もう寝ましたよ、あら、それは………」
「廣島のノリだ、美味いぞ」
白い帯で一束ねになった黒い海苔を、
ゆっくりと机の上に置いた、
「次はいつ出航ですか?」
「来週辺りにアメリカへ、長旅になるからよろしく頼む」
「あなたがいつまでもあの船にこだわるから社長さんだって処分に処分出来ないって言ってましたよ」
海苔を一枚束から取り出してご飯の上に載せる、
おかずもある、ゆっくりと箸を動かして食べた、
「うん、美味い美味い」
「どちらのことを言ってるんですか」
「両方だよ、君のご飯と海苔の両方だ」
「もう………」
しばしの無言の中、
一つ気付いた事があった、
「そう言えばもう年末か………」
「賢志も、海軍学校へ帰りましたもんね………」
「またいつ帰ってくるのやら」
「幸志も間もなく陸軍に入るそうです………」
「寂しくなるなぁ」
「優子が言ってましたよ、私だけ置いてかれてるって」
うーんとうなりながら、
最後のご飯とおかず、海苔をかき込んだ、
「………みんなで笑って暮らせばいいや」
「はぁ………」
おそらく次飛び出す言葉はと予想しつつ、
タイミングをあわせて言う、
「「船乗りってどうしてこうなのかしら」」
飛びっきりのびっくりした顔を見れた、
そして、二人で笑った、
深夜の我が家、
1938年1月2日、
廣島宇品港にて客船が強風により転覆、
江田島への帰り、多数の海軍兵学校の生徒が犠牲となった、
長男 古賀賢志 永眠