一話
「船乗り?ここは山の中だぞ、なれるとしても筏を下流におろすくらいだろ、夢なんか見てないでさっさとご飯食べな」
そう言われて、
私は木こりの息子として育った、
年は丁度日本海海戦、
誰もが連合艦隊に憧れた時期、
私も連合艦隊に憧れた、
末っ子の私を産んだあとに母は亡くなり、
出稼ぎのために姉は大きな屋敷へ売られた、
残されたのは私だけだった、
父は母が居なくなっても普段通りだった、
近所の話を聞くと森の中で一人で泣くことがあったという、
この時私は考えもしなく、ふーんと受け流してしまったが、
父は傷付いていたことは今考えれば分かることだった、
そして同時に追い詰められていたのかもしれない、
普段通りに接してくれていた優しい父も、
その夜に首をつって自殺した、
遺言にはひたすら自分の無力さしか書かれておらず、
警察もただ、手を合わすしかなかったという、
次の日の夜、
黒い車に乗った姉が迎えに来た、
父が死んでも泣かなかった私が、
その時初めて泣いた、
その後私は呉にある姉が働いてる屋敷に雇われ、
姉と一緒に働いた、
そんなある日、港が見えるベランダから、
奇妙な船を見つけた、
煙突がない、まるで帆船からマストを切り取ったような木造の船、
思わず魅入っていた、
「あの船が気になるか?」
髭がたくさん生えた屋敷の主に話しかけられた、
思わず止めていた手を再び動かして窓ガラスをふいた、
「あの船はな、私の船だ」
思えばこの時から、
私の運命は決まっていたのかもしれない、
ひたすら無気力な小さな私が、
初めて活気というものを知った瞬間でもあったかもしれない、
「奇妙な子供だな、木こりの出と聞いたが海に興味あるとはな………」
そう言って、
屋敷の主は屋敷の奥に消えていった、
その後私と姉は独立し、
それぞれ就職をした、
廣島船舶、かつて私が働いた屋敷の主の会社だった、
貿易会社であり高性能化していく商船の建造競争に遅れをとっていた、
しかし古くても航続力がある船ばかりだったし、
あの時は遅くても大丈夫だった、
そして年月が過ぎ、
私が船長を務める船は、
海軍に徴用された、