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14ー2

 このチョーカーには能力を発動する機能があると、診療所の少女が言っていた。二重の円が出ているということは、このチョーカーはレキアンの力を使って、レキアンの首を絞めているのだ。つまり、レキアンの能力に打ち勝てなければ、チョーカーを外すことが出来ない。

 レッドは右手をチョーカーに添え、必死に力を念じる。

 しかし、レキアンの力の方が強力なのか、チョーカーはレキアンの首に、どんどん食い込んでいく。

「外れろ、外れろ、外れろ! 外れてくれ!」

 レッドの悲痛な叫びは届くことなく、レキアンの顔色は真っ赤に変わっていった。

「嫌だ。嫌だ。嫌だ!」

 首に添えるレッドの手が震える。チョーカーは一瞬緩むも、すぐに絞まる力は強まってしまう。

 レキアンの手が、レッドの頬にそっと触れ、拭う動作をした。レッドはいつの間にか、涙を流していた。

 レッドは霞む視界で、レキアンの顔を見る。レキアンは苦しみながらも微笑み、口をゆっくりと動かした。

『あ、り、が、と、う』

 レキアンの口は、そう動いていた。そして、レッドの頬に触れていたレキアンの手が、力なくだらりと落ちる。それと同時にチョーカーが弾け、レキアンの首は解放された。だが、解放されたというのに、レキアンはピクリとも動かない。

「……レキアン?」

 呼びかけてもレキアンは答えない。

「レキアン……」

 レキアンの頬を撫で、レッドは何度もレキアンの名前を呼び、反応を待った。けれども、レキアンがレッドに微笑みかけることはない。もう二度と。

 それを理解したレッドは、レキアンを強く抱きしめた。

「ああ、金が無駄になった。こんなゴミのせいで」

 レイドクラフトが吐き捨てるように言う。

「……ない」

 レッドは何かを呟くが、それに気が付かないレイドクラフトは喋り続ける。

「しかたがない。浮いた金が消えることになるが、用意していたもう一匹を出すしかないな。ツヴェルフを出せ!」

 レイドクラフトの怒鳴り声に、競技場に繋がる鉄製の門が開かれる。そこから、緑の髪を持った長身の男が出て来た。

「お前はゴミの真似はするなよ」

 レイドクラフトはレキアンを抱き締めたままのレッドの背に向けて言った。レイドクラフトの言葉にレッドはこぶしを握る。

「……でもない」

「うん? 何て言った?」

「俺達はゴミでも、お前らの道具でもない!」

 レッドは振り向きざまに、腕を横なぎにして能力を使った。レイドクラフトが後方に吹っ飛ぶ。それを、後ろにいたツヴェルフが受け止め、レイドクラフトは壁にぶつからずにすんだ。

 レッドの行為に闘技場内がどよめく。

 チョーカーをされたものが、主人を攻撃するなど前代未聞だった。

「何をする貴様! 私は主人だぞ!」

 怒りの表情で怒鳴るレイドクラフトだったが、その顔が訝しげに変わる。

「……何故、痛がらない? 首輪に信号を出したはずなのに」

 どうやらレイドクラフトは、チョーカーに能力が発動するように、命令を送ったようだ。しかし、レッドの能力はレキアン達のとは別物で、チョーカーが機能するはずがなかった。

「こんなもの俺に効くか」

 レキアンを胸に抱いたまま、レッドは立ち上がった。そして、レイドクラフトにゆっくりと近付いていく。

「能力があるから同じだと、バカな判断をしたな」

 得体の知れなさに怯えたレイドクラフトは、ツヴェルフの背に回る。そこから、顔だけ出し、レッドに問うた。

「……お前は何だ?」

 ツヴェルフを盾にするレイドクラフトは、なんとも情けない姿だった。

「何だ、か。何だろうな」

 人間から生まれたのに、人間と認められなかったレッド。いったい何をもって、人間とするのか。いったい誰が、人間と決めるのか。

「俺からしたら、お前達の方が化け物に見える」

 ここにいる人間と言われる生物達は、戦いと死に興奮し、それを乞うている。レキアン達をゴミのように扱い、自分たちの都合でその命を奪いもする。殺すことに良心の呵責もない。

 なんとおぞましい生き物だろうか。

 なんと醜い生き物だろうか。

「こんな奴にレキアンは……」

 レッドは腕の中のレキアンを、もう一度強く抱き締めた。

 レキアンが死ぬ必要など、どこにもなかった。

 死ぬべきは……。

「死ぬべきはお前らの方だろう!」

 レッドは天井に向かい、咆哮を上げた。

 気持ちの高ぶりを抑えきれなかった。

 怒りにより溢れ出たレッドの力が、天井に穴を開ける。

 それを見た闘技場の人間達は、恐怖に包まれた。悲鳴が飛び交い、観客席は逃げ惑う人間達で大混乱になる。

「ひいいぃぃぃ。や、奴を殺せえぇぇぇ」

 レイドクラフトは怯えきった表情で、ツヴェルフに命令した。ツヴェルフがレッドにゆっくりと向かってくる。

 観客席から緑の髪を持った男達が、競技場に下りて来た。どうやら客の中にも、連れて来ている人間がいたようだ。

 レッドはツヴェルフ達に囲まれ、五対一の圧倒的不利な立場になった。

 だが、レッドはツヴェルフ達に見向きもせず、レイドクラフトのみを睨み付けた。

「お前だけは絶対に許さない」

 ツヴェルフ達がレッドとの距離を、ジリジリと詰めてくる。見たこともないレッドの能力に、ツヴェルフ達は攻めあぐねているようだ。

 それもそうだろう。この世界の能力は、発動前に必ず二重の円が現れる。だが、レッドの能力には、そういったものが必要ない。予告もなく発動する能力は、この世界の能力に慣れきったもの達にとっては、不意打ちと同じようなものだ。

 ここがレッドのチャンスだった。

 ツヴェルフ達の後ろで、逃げようとしているが恐怖でうまく歩けないレイドクラフトに、レッドは右手を向けて力を放った。

 レイドクラフトが吹っ飛ぶ。

 今度は、レイドクラフトを助けられるものは誰もおらず、レイドクラフトは闘技場の壁に思い切り叩き付けられた。レイドクラフトの身体は壁に沿ってずるりと地面に落ち、首がぐるんと半回転した。首の骨が折れているのは一目瞭然で、レイドクラフトはあっけなく死んでしまった。

 そして、それが闘技場をさらなる恐怖に陥れる。娯楽だとしか思っていなかった死が、自分に迫る脅威となったのだから当然だろう。

 しかし、レイドクラフトを殺したレッドは、これ以上の死を望んではいなかった。

 ただ、レキアンを殺された憤りを、殺した張本人に返したかっただけだ。

 それを終わらしたレッドは、ゆっくりと手を下ろし、脱力した。

 復讐を果たしたというのに、レッドの胸の中には、虚しさしか残っていなかった。

 レキアンはもう戻らない。

 怒りをぶつけ落ち着いてきたレッドの頭は、その事実をレッドに付きつける。

 何をしても、一度なくした命は戻って来ないのだと。

 無気力になったレッドに、ツヴェルフ達はチャンスと思ったのか、五人全員が二重円を展開する。

 円の色は赤。円の中心から火の玉が飛び出る。

 レッドはそれを、腕を軽く一振りするだけで弾き飛ばした。火の玉は四方に飛んでいき、天井をえぐり、人のいない観客席を破壊した。

 ライリーと戦った時と比べ、ツヴェルフ達の力は明らかに威力が劣っている。チョーカーに威力を制限されて、能力を最大限で使うことが出来ないのだろう。その力はレッドにとって、鬱陶しい虫を払うかのような、簡単に弾ける程度の力だった。

 ツヴェルフ達はレッドとの力の差に色めき立つ。虚ろな目をするレッドが、本気を出していないことぐらい、ツヴェルフ達にだって嫌でも分かった。

 ツヴェルフ達は陣形を解き、ツヴェルフの元に全員で集まる。今度は五人同時に二重円を作り出し、それを重ね合わせた。そこから炎が噴き出る。火の玉とは比べものにならないほどの威力だった。

 ライリーの時と張るぐらいの威力。

 それを見て、レッドは右手を上げ、向かってくる炎を押し返した。

 押し返しながら、ぽつりと思う。

 もうここにいたくはない。

 レッドの力とツヴェルフ達の力は拮抗し、炎がお互いのちょうど中央で止まる。行き場のなくなった炎が、唸るように天井に向けて噴き上がった。そして、炎の真ん中に、黒い穴が発生した。

 レッドがこの世界に来ることになった原因の黒い穴だ。

 黒い穴はどんどん大きくなり、人を飲み込めるサイズになった。以前と同じように、黒い穴に向け、引力がかかる。

 ツヴェルフ達はそれを見て、顔色を変え逃げ始めた。引力に足を引っ張られ、尻餅を付いているものもいる。

 そんな中、レッドだけが黒い穴にふらふらと近寄って行った。

 腕にレキアンを抱いたまま、レッドは穴の中に吸い込まれていく。

 レッドとレキアンの姿は消えた。

 黒い穴も収縮し、あとには荒れ果てた闘技場と、逃げ惑うこの世界の住人達だけが残った。


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