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14ー1

「おら、起きろ!」

「ゴホゴホッガハッ」

 いきなり水をかけられ、レッドは思い切りむせた。

「さっさと立て!」

 腹部を蹴られ、レッドはさらに息を詰まらせる。

 何が起きたのか、レッドには全く分からなかった。

 ズキズキと痛む頭を押さえ、霞む目で周りを見回し、レッドは自分がどこかの闘技場らしき場所にいることを知る。天井のある闘技場は、いたるところに松明が設置してあるが、隅々まで灯りが届いておらず、特に観客席は暗い。観客席には人間がひしめいているが、暗さのせいで、人間達の表情までは見えなかった。そして、それが薄気味悪さを助長していた。

 ここはどこなのか。

 レッドは円形の競技場に倒れていた。ふらつく足でゆっくりと立ち上がり、慣れてきた目で、さらに闘技場の中をくまなく見る。そして、レッドのちょうど反対側に、誰かが立っているのが見えた。

 目をすがめ、レッドはその人物をよく見る。

 そして、驚愕した。

 ここからでも分かる、美しい緑の髪。

 レッドが助けたいと切望していた相手。

 レキアンだった。

「さあ、お待たせいたしました! 今宵は皆々様が待ちに待った、怪物同士の戦いです!」

 中央に立つ男の掛け声で、観客席が歓声に沸く。

「怪物同士……?」

「もう分かっている。お前が怪物だってことは」

 後ろから声がかけられ、レッドは後頭部が痛いのを我慢して振り向く。そこにはレイドクラフトがいた。

「お前が空を飛んでいるところを、見た奴がいたのだよ。どうやって髪や目の色を変えているのかは知らんが、わざわざ私の屋敷に潜り込むとはな。どこの調査機関の手下か分からんが、ここへの通路がある北棟をやたら見ていたり、周りに聞きこみをしたりといったバレバレの行動で、頭が悪いなと思っていたよ。まあ、前のように怪物同士の迫力ある戦いが見たいと言われていたから、ちょうど良かった。お前達を買うのにも、金がかかるからな。大金を使わずに、この賭け試合を設けることが出来たよ」

 レイドクラフトは下卑た笑みを浮かべる。

 レッドはレイドクラフトの立場を悪くする、何かの調査をしていたと勘違いされたようだ。

 そういえば、診療所の少女が、レイドクラフトが裏賭博をしていると話していた。ここが、その賭博場ということなのだろう。

「ふざけるな……」

「言葉遣いがなってないな。お前にはすでに首輪を付けてある。お前の所有者は私だ。言葉遣いに気を付けろ」

 レッドは首に手をやった。手探りでチョーカーが二本あるのが分かる。一本は元からある赤いチョーカーで、もう一本は少女と同じ黒いチョーカーだろう。

「私はいつでも、お前の命を絶つことが出来る。まあ、この試合で、死ぬことになるかもしれないがな」

 黒いチョーカーを付けられたところで、レッドには関係ない。この世界の異能の力と、レッドの力は全く別なものだ。能力が違えば、このチョーカーが機能することはないだろう。

 だが、レキアンは違う。

 レッドはレキアンを見た。レキアンは何をするでもなく、ただ静かに立っている。

「お客様を盛り上げるよう、派手に戦えよ」

 そう言い残し、レイドクラフトはレキアンの方に向かった。

 レキアンを助けようと思った矢先に、こんなことになるなんて。

 レッドの不注意が招いた結果だ。

 レッドは己の愚かさを後悔した。しかし、もう失敗を取り戻すことは出来ない。

「人間ではないもの達の、手に汗握る死闘をご覧下さい!」

 司会の煽りで、闘技場の中はいっきに加熱する。殺せ、死ねと叫ぶ客席に、レッドはゾッとした。ここにいる客達は、殺し合いを見ることを楽しんでいるのだ。

 ここからレキアンを連れて逃げねば。

 レッドが再びレキアンの方を見ると、レイドクラフトとレキアンが何かを話しているところで、レイドクラフトがレキアンを思い切り叩き、レキアンは地面の上に倒れた。

「レキアン!」

 レッドは痛む頭を無視して、ふらふらになりながらもレキアンの元へ走る。その間も、レイドクラフトはレキアンを蹴り上げ続け、レキアンが無残に地面を転がった。

「やめろ!」

 レッドはレキアンとレイドクラフトの間に割って入って、レキアンを背にかばう。そして、レイドクラフトを睨み付けた。

「こいつといいお前といい、どうしてこうも逆らうのか」

 レイドクラフトはイライラと頭を掻き乱す。

「俺様が戦えと言っているのだから戦えばいいのだよ! なのに、いきなり戦えないなどと!」

 怒りのままに、レイドクラフトが叫んだ。

 レイドクラフトの言葉から察するに、レキアンはこの戦いを嫌がったのだろう。命令を聞くことしか許されないレキアンにとって、それが何を意味しているのか、レッドには分かる。

 レキアンは命をかけて、レッドと戦うことを拒否したのだ。

 レッドの胸の内に、熱いものがこみ上げてくる。

 そして、レキアンを守らねばと、さらに強く思った時、レッドはまたレキアンに助けられることとなった。

 レッドの後頭部が温かくなり、ズキズキとした痛みが引いていく。レッドは緑色の暖かな光に包まれていた。レッドが驚いて後ろを振り向くと、レキアンが能力を使って、レッドの傷を治していた。

「よけいなことばかり……!」

 レイドクラフトが歯を食いしばり、怒りの形相となる。

「命令を聞かない上に、勝手なことをするゴミなどもういらん!」

 そうレイドクラフトが叫んだとたん、レキアンが苦しみ出した。首を掻き毟り、レキアンの顔が歪む。息が出来ないのだ。

「レキアン!」

 レッドは慌てて、レキアンを抱き起こす。

「今、今こんな首輪外すから」

 レキアンの首元を覗きこむと、チョーカーの上に、レキアン達が能力を使う時に出す二重の円が、浮かび上がっていた。


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