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少女と話した後、レッドはすぐ帰路に付いた。移動を短縮しているとはいえ、少女と話していたので、帰る時刻はギリギリといったところだった。
レッドはまた空を飛び、すでに森まで戻って来ていた。
木の棒は下り立った場所に捨て、レッドは一人、森の中を歩く。
森の中の道は朝と違い、影が濃く、まだ日は落ちていないのに、だいぶ薄暗かった。
その薄暗い中、レッドは歩きながら色々なことを考えていた。
レッドの頭の中に、元の世界で戦ったレキアントの顔が浮かぶ。
あのレキアントはライリーだ。
レッドは確信していた。
レキアントという名称は、二つの言葉を繋げて作られたものだ。一つは、レキアントが初めて現れた村の生き残りの証言から。レキアントはレキアンと叫びながら暴れ回っていて、その村で怪物を意味するアントという言葉を繋げて、レキアントと名付けられた。
向こうの世界での出現と、こちらの世界での消失で、時間にズレがあるが、世界を越えているのだ。時間がズレていたとしても、おかしくはない。
ライリーはチョーカーが反応しないことを、チャンスと思ったのだろう。チョーカーが使えない今なら、仲間と力を合わせて人間を倒せると。そして、妹を探しながら暴れ回ったのだ。
しかし、ライリーの行動は、無駄に終わった。ライリーの仲間達は、その世界にいなかったのだから。
ライリーは仲間のいない世界に、愕然としただろう。
そして、ライリーは向こうの世界の征服を始めた。人間のいない、住みやすい世界を作ろうとしているのかもしれない。
早く元の世界に戻らなければ。
レッドは強くそう思った。
あの少女のおかげで、帰り方は見当が付いている。
力のぶつかり合い。それが、あの黒い穴を作り出すのだろう。レキアントの誰かに手伝ってもらえれば、元の世界に帰れる。
問題はその先だ。
「ノイン、いやレキアンを助けたい」
声に出して、レッドは自分の気持ちを確かめる。
レキアンをレイドクラフトの屋敷に、置いておきたくはない。
こんなところにレキアンの幸せはないから。
それは、同じように迫害されてきたレッドだからこそ、分かることだった。
レッド達能力者は、危険種の指定を受けている。人間にはありえない力を持ち、人間に危険を及ぼすとして、政府に管理されている。小さい頃から研究所に隔離され、そこで様々な実験を受け、能力を使う仕事をさせられる。どんなに危険なことでも拒否権はなく、レッド達は命令を聞くことしか、許されていなかった。この首にある赤いチョーカーも、レッド達が逆らえないよう色々な機能が付いていて、人間を害した場合は、このチョーカーが爆発することになっている。
人間に怯えながら暮らさなければならないレッド達は、レキアントそのものだった。
それを知った今、もうライリーと戦うことは出来ない。
それに、レキアンを連れて元の世界に帰れば、きっとライリーを説得することが出来る。レキアンも兄に会いたいはずだ。
向こうの世界の人間達は、自分達より強大な力を持つものを受け入れないが、この屋敷にいるよりましだとレッドは思った。
どちらの世界で暮らすかは、後々考えればいい。
レキアンを連れて黒い穴を通って戻れば、レキアンは死んだように見え、レイドクラフトから解放される。向こうからまたこちらに戻って来てもいい。その時は、レッドの仲間の能力者達も連れて来たい。
未来の姿を、レッドは頭の中に思い描く。
兄と自由を取り戻し、自然の中で心から笑うレキアン。そこにはレッド達能力者もいて、両者は自由の中で、幸せに暮らすのだ。
それは、とても幸福な姿だった。
実現したい。
レッドは心の底からそう思った。
その為には、まずレキアンに説明しなくてはならない。
兄が生きていると知れば、レキアンは驚くだろう。その時の反応が楽しみだ。
レッドの口元が緩む。
もうすぐ屋敷だ。
色々と考えているうちに、レッドは屋敷のすぐそばまで、帰って来ていた。
日はすっかり沈み、暗闇の中に、ぼんやりと屋敷の灯りが浮かぶ。
いつもなら戸締りが終わっていて、門は閉じている時間なのに、何故か門は開いていた。
門をのり越えたり、誰かを呼んだりする必要がないのは助かる。
レッドが門を通り抜けた時、誰かに思い切り後頭部を殴られた。
油断していたレッドは、もろに攻撃をくらう。レッドの身体が、踏み固められた土の上に倒れた。その拍子に、胸ポケットに入れていたペンダントがこぼれ出る。
薄れゆく意識の中、レッドはそのペンダントに手を伸ばした。
しかし、それに手が届くことはなく、レッドは意識を失った。
レッドを男達が取り囲む。レッドの近くにあったペンダントは、そのうちの一人の男に踏まれ、割れてしまった。
レッドは男に担がれ、屋敷の方に運ばれていく。
その場には、砂に塗れ、バラバラになったペンダントだけが残された。




